ネコの声で喧嘩か遊びを判断するーー「ネコと音」最新研究を大紹介

2023.9/15 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、ネコと音に関する研究を3つ紹介したいと思います。(今回の研究は科学系ニュースサイト「ナゾロジー」にて詳しく紹介されています)


◾ネコはジェスチャーと音、どちらに強く反応するのか

まずは、ネコの気を引くにはどうするのが良いか、に関するものです。フランスのナンテール大学の比較倫理学・認知研究所の研究チームは、2023年5月に発表した論文では、猫カフェにいる12匹のネコを対象にその行動を研究しています。

研究では、まずネコカフェのネコが研究者と触れ合い、慣れてきたことを確認します。その上で、研究者は4つの方法でネコを呼び、ネコの反応の速さを比較しました。
①声で呼ぶ(フランス人がよく使う、キスする時のような音を利用)
②ジェスチャーを使い、声は出さない
③声とジェスチャーの両方を使う
④何もしない


結果は、やはり③の声とジェスチャーを利用したものが、一番ネコの気を引くことに成功しています。興味深いのは、2番目に反応が早かったのが、ジェスチャー、つまり視覚情報だったことです(次に声、最後に何もしないでした)。

というのも、犬も音声より視覚情報に強く反応することがわかっていましたが、これまでネコは、犬ほど視覚情報には反応しないと考えられてきたというのです。しかしこの研究では、ネコも視覚情報を重視することが判明したことになります。

いずれにせよ、音も重要ですが、ネコに対しては(特に見知らぬネコに対しては)ジェスチャーで示すことがより重要ということになります。

◾ネコが遊んでいるのか喧嘩しているのかーー鍵は「声」にある

次は、ネコがじゃれあっているのか喧嘩をしているのか、その境界をどのように判定するかに関する研究です。スロバキアはコシツェの獣医薬学大学(University of Veterinary Medicine and Pharmacy in Košice)とイギリスの大学研究者たちが2023年1月に論文で発表しています。

研究では、105組(=210匹)のネコのやり取りを記録した105本のビデオを、4人の専門家が

①じゃれあい(遊び)
②中間(じゃれあいと喧嘩の中間)
③喧嘩

の3つに判定します。また同時にネコの行動を、取っ組み合い、追いかける、うなり声などの発声、といった6つに分類しています。

様々な分析の結果、じゃれあい=遊びの多くは「取っ組み合い」が見られる一方、発声は見られませんでした。特に子猫に多いものですが、いずれにせよ、取っ組み合っているだけの場合は、遊んでいると考えられます。

逆に喧嘩の場合は、やはり唸り声などの発声がみられました。特に発声しながら動かずににらみ合っている等の行動が見られました。

最後に中間ですが、これは長時間に渡って付かず離れず、仰向けに寝転がったり飛びかかろうとしたり、つきまとったり等、相互行為の中でお互いを見合っているものです。一方は遊ぼうとしたり、逆に一方は威嚇的だったり、共にリズムが合っていない状態であるとも言えるでしょう。

いずれにせよ、喧嘩の場合は「発声」が重要になってくるということがわかります。

◾ネコがリラックスする音楽とは

最後に、ネコがリラックスする音についてです。
2015年の研究では、避妊手術を受けるメスネコ12匹が、全身麻酔中にクラシック、パンクロック、ポップスを聞かせた結果、クラシックを聞いた時が、呼吸数が少なく、瞳の大きさを示す瞳孔径も小さくなり、リラックスした状態であることがわかりました。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1098612X15575778

こうした研究の他、ワシントン・ナショナル交響楽団のチェリストや指揮者として活動するデヴィッド・タイ氏は、動物科学者と協力して、ネコ専用のヒーリングBGM「Music For Cats」を作成しています。

実際、アメリカのルイジアナ州立大学獣医学部の研究チームは、手術前のネコにクラシック、無音、上記のネコ専用BGMを聞かせたところ、ストレス値が一番下ったのがネコ専用BGMだったという論文を、2019年に発表しています。

またこのBGMは2016年にCDとして発売され、日本でも2017年に発売しています。

このように、動物専用のヒーリングミュージックが、今後は増えていくことも考えられるでしょう。

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