蚊の繁殖に音が関係するーー「マラリアと音」を考える

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2021.3/11 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、世界中で猛威を振るうマラリアの対策と、そこに関わる音の関係について紹介したいと思います。

◾猛威を振るうマラリア

WHO(世界保健機関)によれば、マラリアは2020年で推定2億4000万人以上が感染し、約62万人が亡くなっていると考えられている危険な感染症です。

マラリアは蚊(マラリアをヒトに媒介する種の多いハマダラカ属)に刺されることで感染します。昨今では蚊の個体数を減らすため、生まれた子孫がすべてオスだけになるように遺伝子組み換えを施した蚊を野生に放つといった対策が取られています(こうした対策には反対の声があります)。ここで必要なことは、放った蚊が適切に野生の蚊と交尾を行うかどうかです。

◾マラリアと音

そんな中、2022年1月に、イギリスとタンザニアの研究者を中心としたグループが、蚊の繁殖と「音」に関する研究を発表しました。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abl4844

蚊の繁殖に際して重要な点は、互いの飛行時の「音」です。研究によれば、蚊(ハマダラカの中のガンビエハマダラカ)は相手の飛行音を認識する聴覚を有していませんが、互いが飛行している時に発生する周波数の音(歪成分耳音響放射)を聞くことは可能であり、その音を頼りに交尾を行います。つまり、オスとメスの飛行音が合わさることではじめて、互いの位置を認識することができるのです。

研究チームは高感度マイクを設置した複数のケージの中に、数百匹のオスとメスの蚊を、オスだけやメスだけ、またオスとメス両方に振り分け、その羽根の音を収録・分析しました。その結果、メスの飛行音は一日を通してほとんど変わらないのに比べて、オスは夕方の時間になるとメスの1.5倍の速度で羽を羽ばたかせることがわかりました。蚊の繁殖時間は夕方なので、蚊は夕方に自ら飛行音を調整し、その結果オスとメスが互いの位置を認識することが可能になり、繁殖を行っていると考えられます。

また、オスだけのケージでも夕方に羽の速度を1.5倍にすることから、この行動は一般に体内時計とも呼ばれる「概日リズム」に従った生理現象であると理解できます。

この結果が他の地域の蚊でも同様であるか等、今後も研究は続けられる必要があります。とはいえ、蚊の繁殖に音が関わっているということは、例えば、繁殖時間のオスの飛行音が流れる音響空間を用意することで、遺伝子組み換えした蚊の繁殖をこれまで以上に促進することが可能になるかもしれません。もちろん、実際の繁殖には他の要素も考慮される必要がありますが、音はマラリア対策にも貢献し得るのです。

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