特定の範囲にだけ音を届けるーー「指向性スピーカー」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「特定の場所にだけ音を届ける~「指向性スピーカー」を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.6/19 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、特定の範囲に限定して音を届ける「指向性スピーカー」を紹介します。

◾指向性スピーカーとは

指向性スピーカーという言葉をご存知でしょうか。指向性スピーカーとは、特定の音を特定の範囲にのみ届ける技術を有したスピーカーです。例えばショッピングセンターのような広い空間であっても、特定の商品棚をみている顧客に向かってだけ音を届けることが可能になります。

また、昨今の指向性スピーカーはA4サイズまで小型化が進み、比較的小規模な店舗でも設置しやすくなっています。

指向性スピーカーが発する音は一方向に向けられますが、例え左にスピーカーがあったとしても、壁の反射を利用して右から音が流れるようにすることも可能です。他にも、これまではイヤホンが必要だった美術館の音声解説も特定の場所に立ち止まるだけで済んだり、あるいはエスカレーターの終盤や立ち入り禁止区域の直前などで、注意喚起の音を届けることも可能です。もちろん、視覚障害者に対して信号の前などで音を届けることも、社会的に意義のあるものです。

◾ソーシャルディスタンスと指向性スピーカー

指向性スピーカーのような技術は、広い空間にあっても、自分だけの音がヘッドフォンなしで体験可能になります。また今後はスマートフォンの個人データなどと連携させることで、特定のユーザーが特定の空間に入ると、音楽や解説、あるいは広告を含めて、そのユーザーに最適な情報を提供するサービスを提供することなども可能になるでしょう。

指向性スピーカーは便利な一方、様々な利用のされ方もあります。例えば以前紹介したように、LRAD(エルラド)という数キロ先まで音を発生させる長距離音響発生装置があります。LRADは指向性を有したスピーカーですが、デモの鎮圧目的などで、特定の範囲に武器としての音が用いられることもあるのです。また音の個人化が進行するならば、夕方に流れる地域ごとの音楽やお寺の鐘の音など、共通の音体験をする機会などにも、今後は配慮が必要になると思われます。

いずれにせよ、私たちの音体験はより個別化、細分化が可能となり、個人に最適な音空間の提供を可能にします。一方、新型コロナウイルスの影響で公共空間におけるソーシャルディスタンスが保たれる必要がありますが、特定の場所に音を届けるという意味では、距離を確保したまま、特定のユーザーに音を届ける技術は、今後はより必要になる技術ではないでしょうか。

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