音楽体験で得られる神経反応ーー「音の統計学習システム」とは何か

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「音楽体験で得られる神経反応~「音の統計学習システム」とは何かを考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.9/18 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音楽家の脳を調査することでわかった、音楽と脳の関係についてご紹介します。

◾音楽体験で異なる神経反応

これまでの研究によって、音楽教育を受けてきた音楽家は聴覚機能が発達し、それが言語機能の向上にも寄与することがわかっています。一方、医学博士で音楽の神経科学が専門の大黒達也氏は、クラシック等に代表される西洋音楽と、雅楽のような日本の伝統音楽で、脳に与える影響が異なるという研究を発表しています。

一般に、西洋音楽は数学的な規則的時間間隔を構成するのに対して、日本の伝統音楽は(西洋と比較すれば)不規則な感覚で、「呼吸の同調」によって伸縮するような独特の「間」を構成しています。このように、音に対する感覚の差異が認められるのです。

ところで、人間の脳には意識せずとも、目の前の出来事に対して対処できる「統計学習システム」が備わっています。例えば、聞いたことがないリズムを聞いても、私たちはそれが音楽であることを無意識に理解します。そして音楽家のように音環境に馴染みの多い人は、音楽に関する統計学習システムが発達しています。

大黒氏は、音の統計学習システムに音環境が影響を与えていることを調べるために、西洋音楽家と日本の伝統音楽家、非音楽家それぞれの脳の神経経路について調べました。その結果、非音楽家に比べて音楽家は、知らない音に反応する力が高いこと、そして西洋音楽家と日本伝統音楽家では、リズムの聴覚機能など、それぞれの脳活動に異なる反応が現れました。

脳の神経反応というデータの他、現実的にどのような差異が現れるかについては今後の研究が必要ですが、種類の異なる音に接することで、聴覚機能の発達に様々な可能性があることがわかってきました。

この研究は、西洋と東洋のどちらが優れているということを主張するものではありません。むしろ様々な音楽を受け入れ、さまざまな文化を享受できる社会環境を設計することで、私たちはより豊かになっていくと言えるでしょう。また大黒氏によれば、西洋音楽と神経回路についての調査は多いものの、日本の伝統音楽と神経回路に関する調査は少なく、この分野についてより多くの研究が必要であると述べています。

このように、音環境は私たちのリズムや聴覚機能に影響を与えています。具体的にどのような影響を与えるかを調べるためにも、音の研究が必要なのです。

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