ネットフリックスが音声のみモードを開始する?ーー「視覚メディアの音声市場参入」を考える

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2021.1/15 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、広がりをもつ音声市場に、なんと視覚メディアも参入しはじめている、という話題を紹介したいと思います。

◾音声市場の盛り上がり

ここ数年、音声配信であるポッドキャストの市場が、アメリカを中心に高まっています。とりわけ新型コロナウイルスが世界的に影響を及ぼすに従って、ポッドキャストやラジオなど、音声メディアがより一層注目されました。

当ラボも度々紹介してきたように、音声読み上げソフトで本を聴いたり、あるいはワイヤレスイヤホンが普及する中、歩きながら音だけでオンライン会議に参加したり、音声配信者として自ら番組を立ち上げる人も増えました。ニュースの音声配信も増えており、日本でも朝日新聞の「アルキキ」などが注目されています。

そんな中、耳だけを利用する「音声」に対して、「目」を利用する視覚メディアも、音声を利用しはじめています。

◾視覚メディアが「音声市場」に参加する?

近年の成長が著しいネットフリックスは2020年、Androidの専用アプリで「音声のみモード」の試験運転を実施していることが報道されています。これは、ネットフリックスで配信されているドラマや映画を音声のみで利用できるということです。

一見すると、映画やドラマの音だけ聴いても、魅力は半減するように感じられます。しかし、例えばドキュメンタリーなど、視覚情報よりも、内容そのものに注目すべき作品などは、音声だけに集中することで、逆説的に意味内容自体はより深く伝わる可能性があります。

もちろん、現状では映像付きの方が満足度は高いと思われます。とはいえ、移動中などで、通信量をカットし、音だけでコンテンツを楽しもユーザーは存在します。

もちろんそれだけではありません。アメリカでは、ポッドキャストでまず音声のみのコンテンツを配信し、一定の人気が得られれば映像化する、という手法が取られています。実際、ポッドキャストからドラマ化して話題となった、ジュリア・ロバーツ主演の「ホームカミング」という作品は、アマゾンプライムで配信され、同じく「ダーティー・ジョン」はネットフリックスで配信されました。


ネットフリックスの強みは大量のユーザーデータの分析です。そのように考えれば、今後は音声に特化した作品をネットフリックス内で配信し、データを分析。そこから人気作品の映像化、というコースも予想されます。

さらに、最近Amazonがポッドキャストの運営会社「Wondery(ワンダリー)」を買収したと発表しています。アメリカで4位の市場規模を誇るワンダリーを買収することで、Amazonのプラットフォーム「Amazon Music」内でこれまで以上にポッドキャスト作品が配信され、その先の映像化も見据えられていると考えられます。

音声市場に映像メディアが参入すれば、当然競争が激しくなります。一方で、音声から映像化、あるいは映像から音声化など、両者は対立するだけでなく、互いに補完し合う関係になるとも考えられます。音声コンテンツ市場は今後、さらにいくつもの選択肢が示されているように思われます。

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