人は音楽を体のどこで感じるのか?――「音楽で感じる身体の感覚」研究の紹介

2024.5/10 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音楽を聴いたときに感じる、私たちの身体感覚について調査した研究について紹介します。

◾欧米と中国でも変わらない「音楽に対する身体感覚」

人が音を知覚・認識する際、私たちは気づかないうちに、数多くの感覚を有しています。

以前も紹介しましたが、赤ちゃんは生まれながらに、音の「ビート(一定間隔で繰り返される音)」を規則的に感じることができます。生後0日~6日の新生児は、規則正しく鳴るドラムの音を認識しますが、その次に不規則なパターンのドラム音を鳴らすと、ビートに関係する脳波は見られなかった、すなわち認識できませんでした。このことが示すのは、赤ちゃんが生まれながらに、規則正しい音については、そのビートを感じることができるというものです。

では次に、音楽を聞くと胸が熱くなったり、あるいは頭がすっきりしたり、お腹に衝動を感じたりした経験はないでしょうか?音楽が人の気持ちを揺さぶることはよくあることですが、実際に身体的な感覚を経験した人も多いと思います。

そこでフィンランドの国立研究所である「トゥルクPETセンター」と中国の電子科技大学の研究者を中心としたチームは、2024年1月、音楽を体のどこで感じるかに関する論文を発表しています。

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2308859121

https://turkupetcentre.fi/about-us/

研究はまず、欧米と中国、合わせておよそ1900人の参加者を集めます(性別や年齢など、様々な属性の人になります)。次に欧米から36曲、中国から36曲の計72曲をそれぞれ、「楽しい曲、悲しい曲、優しい曲、怖い曲、攻撃的な曲、踊れる(ダンサブルな)曲」の6つに分類し、代表的な部分をそれぞれ30秒程度聞いてもらいます(実際には2つの実験を行いますが、詳細は割愛します)。


ちなみに論文を読むと、選曲にあたっては研究者たちは、オンラインのプレイリスト等を徹底的に検索し、さまざまな感情に該当する西洋と中国の楽曲を特定したとのことです。また攻撃なメタル音楽などは、その分野の専門家に相談してリストの改良を行ったとも述べています。

また実際に選曲された曲とアーティストについていくつか事例を挙げると
ハッピー:ABBA「Mamma Mia」テイラー・スウィフト「Shake It Off」
ダンス:スティービーワンダー「Superstition」
悲しい:Rihanna(リアーナ)「Stay」、Lady Gaga & Bradley Cooper「Shallow」
等です。

そして、参加者に音楽を聞いているときの身体感覚、つまりどこで音を感じるかについてアンケートを行い、身体感覚マップを作成しました。その結果わかったことは、文化や性別に関係なく、おおよそ身体で感じる感覚は一致していることがわかりました。

具体的には、優しい曲や悲しい曲は「頭や胸」で感じることが多く、怖い音楽は「腹部」で感じます。また楽しい曲、ダンサブルな曲は全身、特に手足に広く感覚を感じたとのこと。さらに攻撃的な曲も体全体、とりわけ頭部に顕著に感じられたといいます。みなさんはこの感覚が一致するでしょうか?

一方、欧米と中国では多少の差異もみられます。欧米はとりわけ怖い曲を腹部で、また優しい曲、悲しい曲を胸で感じる度合いが強く出ています。他方の中国では、ほとんどの楽曲で腕や脚、頭部に感じる度合いが強くなるということです。ただし、全体としては文化による差異よりも、両者に共通する類似点の方が強いということです。

赤ちゃんとは異なり、こうした感覚は私たちが生きている環境によっても大きく変化が認められるものでしょう。とはいえ、ある程度共通した反応が得られたということは、音楽がもたらす感覚をさらに細かく調査することで、善用も悪用も可能になるでしょう。

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