誰もが経験した音現象ーー「空耳」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「誰もが必ず経験のある音現象~「空耳」を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.6/5 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、誰もが経験したことのある「空耳」について考えてみたいと思います。

◾空耳の原理

空耳は、誰もが一度は経験する現象です。空耳がなぜ生じるのかについて、以下のような研究があります。

英ケンブリッジ大学の研究者たちが行った研究では、ある単語を文字で読み、次に劣化した音声を聞いた場合の、被験者の脳を測定しました。書かれた文字と音声内容は、両者が同一のもの、明らかに異なるもの、音として似ているものの3つで測定しました。

結果はやはり、文字と音声内容が似ているが異なるもののとき、間違いが生じやすくなりました(例えばkick(蹴る)の後にpick(選び取る)を聞くと混同する、といったものです)。

研究では、音声処理に関わる脳の部位である、左上側頭溝があまり活発に活動していないことが判明しました。私たちは生きるために次の音をある程度予期していますが、前の音が残っている状態で劣化した音を聞くと、少し前の過去情報をもとに、今聞いた劣化した音声を同じも音だと誤認してしまうのです。


以前、雑音が混じっても音が正確に聞こえる「音韻修復」について紹介しました。これもまた、雑音によって音のつらなりが確保されると、前の音から次の音を脳が予期しやすくなるという原理でした。

◾人工的な空耳

もちろん、空耳は音の要素だけでなく、似た意味の言葉等の文化的要素も関わる複雑な現象であり、これだけでは空耳の原理を完全に解明したことにはならないでしょう。ですが、ある程度は空耳を意図的につくりだすことが可能です。

例えば、元の音声の周波数に変化を加えた「劣化雑音音声」という音があります。普通に聞くと単なる雑音にも聞こえてしまうのですが、何度も聞く中で元の音の意味を一旦理解すると、もうそのようにしか聞こえなくなります。同様に、元の文字情報の意味(例えば「私はあなたが好きです」)を伝えてからもう一度聞いても、その音にしか聞こえなくなります。

これは音情報に加えて、脳内で次にくる音情報を予期させることでつくりあげる空耳の一種です。

このように、私たちは音を、様々な機能を利用して理解していることがわかります。より複雑な音を構築することが可能になってきている今、私たちの脳神経など、音を理解する機能をより深く知ることが必要になっているのです。

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