ゴリラが胸を叩く時、何を伝えているのかーー「ドラミング」を考える

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2021.4/30 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、ゴリラが胸を叩く時の「音」が何を示しているかを突き止めた研究について紹介します。

◾ドラミング(胸たたき)が伝えているもの

ゴリラを思い浮かべる時、勇ましく胸を叩く「ドラミング」の姿を思い浮かべる人も多いのではないかと思います。映画の影響などで強く印象に残るドラミングですが、なぜゴリラがドラミングを行うのか、その原因について、ある論文が興味深い主張を行っています。

2021年4月に学術誌『Scientific Reports』に掲載された論文では、ドラミングはゴリラ同士の争いを防止するためのもので、「音」がそのための重要な要素であることを突き止めました。

ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所の霊長類学者、エドワード・ライト氏をはじめとする研究メンバーは、アフリカのルワンダにある火山国立公園で2014年1月から2016年7月まで、絶滅危惧種であるマウンテンゴリラを3000時間以上に渡って観察しました。この研究論文の執筆には、数年の時間を要しています。

研究者たちは25頭のオスの、500回以上にわたるドラミングの音や、胸を叩いた回数、持続時間等を収集し、音の分析等を行いました。その結果、オスの体の大きな個体のドラミングは、体の小さな個体よりも周波数が低く、唸り声のような「競争力を示す」音であることがわかりました(ちなみに、ドラミング時の手は、握った状態ではなく手のひらを開いて叩きます。またドラミングはオスもメスも行いますが、オスの方が頻繁に行います)。

ゴリラは群れで生活しますが、しばしば他の群れのオスと戦います。ドラミングの音は1キロ以上先まで届きますが、この音によって自分の体格や強さをアピールすることで、他のオスに対して戦いをやめるよう勧告していると考えられます。

実際、ゴリラ同士の戦いは両者ともに大きな傷を受けるので、遠くから威嚇とともに、自分の力量を伝えることで、無用な争いを避けるものと思われます。このようにゴリラは、ドラミングという非言語的な「音」によって、他の群れのゴリラと一種のコミュニケーションを行っているのです。

また、ドラミングの音は自分の体格と相関関係があるので、繁殖期に自分の魅力を伝えるためにも利用されていることが推察されます。また研究者たちは、ドラミングの音には個体ごとの特徴があること、つまり個体の特徴を伝えている可能性を指摘しています。

◾動物研究の難しさ

研究者によれば、オスたちは10時間に平均1.6回しか胸を叩かなかったといいます。ドラミングは一度につき数回程度しか胸を叩かないため、上述のとおり、音声収集にはかなりの時間がかかっています。

また研究にあたって、ゴリラに近づきないように注意が払われました。これは、人間に固有の病気をゴリラに感染させないための配慮です。実際、アメリカの動物園ではゴリラ3頭が新型コロナウイルスに感染したことがわかっています。

動物と音の関係を調べるために、研究者は粘り強く、時間をかけているのです。

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