最強ポケモンの名前は何か?ーー「音象徴」から考える名前

2021.9/24 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音が私たちにもたらすイメージについて、ポケモンの名前から考えた研究について紹介します。

◾音象徴とは何か

以前も紹介しましたが、日本語では音に濁点がついたものは、力強さをイメージさせます。人気のゲーム「ドラゴンクエスト」には、「ホイミ」という回復魔法がありますが、より強力な回復魔法は「ベホイミ」と名付けられています。

音そのものがイメージを与える事象は「音象徴(sound symbolism)」と呼ばれており、力強さだけでなく、私たちの好き/嫌いといった感情や感覚にも結びついています。

◾最強ポケモンの名前は何か

音象徴の研究を、大人気ゲーム「ポケットモンスター(ポケモン)」を通して行ったものがいくつかあります。

700体以上のポケモンの名前を分析した研究では、濁音の数とモーラ数(一定の長さを持った音の分節単位)が、ポケモンの「大きさ」「重さ」「強さ」「進化レベル」に比例していることがわかりました。例えば「ニョロモ」というポケモンは「ニョロゾ」「ニョロボン」と進化していきますが、濁音やモーラ数に加えて、開口度の大きい母音が多く含まれるものにも、強さを感じる可能性も指摘されています。

さらに別の研究では、言語能力は比較的安定しているものの、国語教育をまだ受けていない6歳の幼児(24人)にも、音象徴の影響を受けるかについて調査しています。

この研究では、ポケモンについて詳しくない幼児に対して、ポケモンが進化すると体が大きくなること等を説明した上で、実際には存在しない架空のポケモンの進化前・進化後のイラストをペアで提示します。その際、同様にふたつの名前を提示し、どちらが進化後にふさわしい名前かを判断してもらった。結果、ほとんどが濁音や母音が含まれているものが多く選ばれたことから、国語教育を受ける以前の幼児においても、濁音に力強さを感じるなど、音象徴の効果を受けることがわかりました。

もうひとつ、鳥取大学や東京大学の研究者たちが発表した2012年の研究は、ポケモンの名前を通して、架空の最強ポケモンの名前を提示するという、ユニークなものです。
まず、ポケモンに詳しくない、名前だけでキャラクターが頭に浮かぶことのない被験者8人に対して、100体のポケモンから1体1のペアの名前だけをみせて、その強さを音だけで判定させます(300ペアで行う)。次に、強さを判定したデータから、どの音が強く聞こえるのかに関する音素分析を細かく行い、そこから架空の最強・最弱ポケモンの名前を考案しました(細かな分析が続き、時間のかかる作業です)。

その結果、架空の最強ポケモンの名前は「ゾラセクト」、最弱ポケモンの名前は「フゾポボフ」となりました。この名前、読者はどのように感じるでしょうか。

こうした研究は、単純に興味を惹かれるものですが、同時に、ブランド名や商品名、映画の登場人物の名前など、様々な分野に適応できる研究です。音が私たちにもたらすイメージについての研究は、これからも進んでいくでしょう。



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