乾燥すると人間には聞こえない音を鳴らす植物ーー「植物の音」の紹介

2023.5/05 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、植物の音に関する研究を紹介します。

◾植物は人間には聞こえない音を発生させている

当ラボはこれまで、動物に関する音など、様々な音についてのトピックを紹介してきました。今回は、人間には聞き取れない音を植物が発生させていたことを示す研究について紹介します。

イスラエルはテルアビブ大学の研究者チームは、2023年3月に論文「Sounds emitted by plants under stress are airborne and informative(ストレスを受けた植物が発する音は、空気中に漂い、情報を与える)」を発表しています。(また、同論文の内容は複数の日本語サイトでも紹介されています。)

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(23)00262-3#back-bib1

植物は人間には見えにくいところで、様々な活動を行っています。例えば天敵が現れる等、様々な状況に応じて、葉の色を変えたり、別の種類の昆虫を呼ぶための匂いを発生させることが知られています。また、植物は乾燥状態になると内部で気泡が破裂(キャビテーション)し、人間には聞き取れない超音波(人間の聞き取れない20キロヘルツ以上)が発生することがわかっています。そこで今回の研究では、トマトと植物としてのタバコに対して、様々なストレスを与えることで発生する音の収録を行いました。

まず、通常の植物の音を記録した上で、水を与えず乾燥させた状態と、茎をハサミで切った状態で音の比較を行いました(録音は防音環境で行います)。その結果、植物は通常時にはほとんど音を出しませんが、ストレス状態に陥ると人間には聞き取れない周波数(超音波)でポップ音やクリック音を発生させていました。またこれらの音は、半径1メートル以上の範囲で感知可能でした。

ストレスを受けた植物は、1時間に11回~40回程度音を出しています。茎を切られた時よりも乾燥時の方が音を出す回数は多く、またタバコよりトマトの方が音は多く出されています。

さらに研究チームは、発生した音をAIに分析させることで、乾燥させた場合と茎を切られた場合、またトマトかタバコかなどの区別も、80%程度の確率で見極められたとのことです(追加で実験した小麦やトウモロコシ、ブドウなどでも同様の結果が得られました)。

植物の悲鳴とも言えるこうした音について専門家は、特定の昆虫であれば数メートル離れてもこの音を理解できる可能性を指摘しています。つまり植物は、音を介して昆虫等とコミュニケーションを取っていると考えることができます。ただ、それが何を意味しているのかについては、今後の課題でしょう。

◾植物の音からわかること

今回の研究を応用すれば、人間には見えない植物の状態を、音を頼りにモニタリングすることを可能にするでしょう。AIを利用することで、常時音声モニタリングを行い、乾燥等の問題を検知した際は、例えばネットワークに接続した(IoT)ホースから自動で水やりを行うなど、農業分野に大きく貢献すると考えられます。

すでにクジラをはじめとして、主に動物の音、そして動物が音を介して何を示しているのかを解明する研究が、AIの登場によって大きく前進しています。今回紹介した植物の音研究も、AIを活用することで、農業や農林など、様々な分野で期待が寄せられています。

こうした技術を媒介にすることで、見た目だけではわからない植物とも、音を利用することでより身近に「コミュニケーション」することができるようになると考えられます。


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