音で異常を検知する技術、盗聴を可能にする技術ーー「音を利用した様々な技術」の紹介

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.8/19 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、異音を発見する技術や、防音環境でも音を盗聴できる技術など、音にまつわる様々な最新技術を紹介します。

◾音の「見える化」で異音を発見

音を利用することで、音の「異音」を抽出することが可能になります。札幌にある「バーナードソフト」というIT企業は、リアルタイム音監視システム「S-Kaleid(エスカレード)」を開発しています。

このシステムは、監視対象となる設備に集音マイクを設置し、予め通常の音を収集・分析し、グラフ化します。その上で、通常とは異なる「異音」を発見した場合に知らせるというもの。もちろん、人間の会話といった異常ではない音を予め理解したり、人間には聞き取ることのできない周波数の異音等も検出できることが特徴です。

監視カメラなどの映像監視システムは普及していますが、音監視システムは、目に見えない問題の早期発見に役立つ、「音の見える化」を行うのです。現在は工場等の設備が主な目的となりますが、今後は屋外、例えば災害の予兆となる異音をいち早く捉える等、用途は多様にあると考えられます。

◾防音環境でも声を盗聴する技術

一方で、音は常に盗聴のリスクもあります。中国は浙江大学とアメリカのニューヨーク州立大学バッファロー校の研究チームが発表した研究によれば、ミリ波(mmWave)と呼ばれる周波数帯の電波を用いて、防音環境の部屋の音も、外部から盗聴することが可能になるといいます。ちなみに、ミリ波は中破や短波といった7つある周波数の波の中でも、最も周波数が高いマイクロ波に属するものです。ミリ波は一度に送ることができるデータ量が多く、昨今の5G(第5世代移動通信システム)にも採用されている周波数です。

研究者は市販のミリ波を発生させるデバイスを利用して、部屋の外から室内を盗聴する「Wavesdropper」というシステムを開発しています。手順としては、壁の外からミリ波を用いて、部屋の中にいる対象者の位置を特定するとともに、喉元の皮膚振動を捉えることで、会話の内容を、単語レベルで復元する、という方法です。また、ひとつのミリ波デバイスで複数人の会話の単語を同時に検出することにも成功しています。

復元のための方法は非常に複雑ですが、簡単に言えば、位置情報から話者と背景にあるエコー、雑音等を区別し、音声情報だけを抽出。さらに音声情報を単語レベルに分割し、ニューラルネットワーク(要するに人工知能)を用いて音声コンテンツに復元するというものです。

この研究では、23人の対象者から、57単語の認識では91.3%の精度を達成しています。また、防音の環境等が異なっても動作は可能だということです。この研究では、市販のデバイスを用いることでも音声の盗聴が可能であるということ、また、人工知能の飛躍的な発展に驚かされます。

研究者は対抗策として、防音対策だけでなく、電磁シールドや電波吸収材を設置すること、あるいは発話者の喉元に別の振動するデバイスを置くこと等を提案しています。通常の生活ではなかなか想定できませんが、国家や企業の機密情報を扱う会議などでは、検討され得るものでしょう。

上記の研究は電波を利用したものですが、音でいえば、やはりスマホのマイクなどから音が盗聴されるリスクもあります。対策として、超音波による音声録音(盗聴)を妨害するブレスレット等も開発されています。

音に限らず、技術は使い方により、善用も悪用も可能です。今後も様々な「音」を用いた技術を注視しながら、適宜紹介していきます。

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