転倒した小学生の登校拒否記事における記事内容の偏り

毎日新聞が転倒して後頭部を打った小学生の登校拒否を報じています。取材対象が親に偏っている印象があります。記者は広瀬晃子氏とのことです。

「転倒の児童嘔吐、学校すぐに救急車呼ばず 頭蓋骨骨折 愛媛の市立小」(2024/6/5、毎日新聞)

記事は問題提起(児童が頭痛などにより学校へ通えていない。教育委員会が即座に救急車を呼ばなかった学校へ口頭注意した)からはじまりますが、読み進めると時系列は以下のようです。

  1. 小学生が他小学生とぶつかって後頭部から転倒した。転倒後に顔面蒼白や少量の嘔吐あり。

  2. 学校は小学生を保健室へ連れて行き、担当教員が親へ連絡した。親は担当教員へ救急車を依頼したが症状の改善を理由に呼ばれなかった。
    ※親の視点のみ記載。担当教員による具体的な説明や養護教諭の対応は記載なし。

  3. 約30分後に母親が学校に駆けつけた際、小学生のふらつきと嘔吐を認めた。母親は学校へ救急搬送を依頼し、学校は救急通報した。20分後に救急車が到着した。

  4. 小学生は市内の病院へ搬送され、左頭部の頭蓋骨骨折と外傷性くも膜下出血の診断を受け、一時的にICUで治療を受けて入院した。3日後に退院した。
    ※症状の程度などの具体的な記載はなし。

  5. 退院1週間後に通学許可が出たが、小学生は頭痛などを訴えており通学できていない。

  6. 市教育委員会が校長へ口頭注意し、校長が再発防止を宣言した。
    ※市教育委員会が「学校の対応は不適切だったと判断」した記載はあるが、口頭注意の対象が自主的な救急通報の欠如か親の要請に応じた救急通報の欠如かは記載なし。

自分の子供が頭を打ち嘔吐して、さらにICUで治療まで受けた親の不安は痛いほど分かります。自分の親しい人が頭蓋骨骨折や外傷性くも膜下出血なんて診断されてICUへ入ったら血の気が引きますし、即座に救急車を呼ばなかった学校への不信感も抱くと思います。

記者は頭蓋骨骨折、外傷性くも膜下出血いずれの程度も取材して書けました。骨折は骨の小さなひびから開放骨折まであり、外傷性くも膜下出血も脳震盪に伴う軽微なものから出血により脳が圧迫された状態まであると思います。親の許可の下で病院に取材すれば分かるだろう情報も同様です。

上の時系列も親視点だけ、言い換えれば親への取材だけで書かれている印象を受けます。学校に取材すれば分かっただろう養護教諭や教員間のやりとりも一切書かれていません。

繰り返し親の気持ちは痛いほど分かって、正義感に駆られただろう記者の気持ちも察します。ただ、記事の内容はあまりに偏っています。少なくともネット上では複数の病院が子供の転倒による頭部打撲では脳震盪による嘔吐を紹介しており、今回のようにふらつきや軽い嘔吐の場合は経過観察を推奨しています。いつもと様子が違う場合や嘔吐があまりに繰り返す場合は受診も強く推奨されていますが、この記事では嘔吐の詳細な回数も頭蓋骨骨折、外傷性くも膜下出血の具体的な重症度も不明です。

分からないことについて漠然と書かれたとき、私たちはバイアスにより判断します。「子供のICU入室」と聞けば一大事を想像します。大事ではありますが経過観察であったり、子供が権力者の子息で特別扱いされている可能性は考えません。

登校拒否の原因が親から学校への不信感だと断定はできませんが、私は記事を読んで学校への不信感を抱いたので、きっとそうなのだろうと想像します。教育委員会が注意したという記載も拍車をかけています。ただ、そう断定するにはあまりに情報量が少なく、偏った記事です。

いじめに加担したり性加害するおかしな教員も確かにいますが、学校や教育委員会の人達が私の知っている「先生」なら、愛情と責任をもって子供を見守り、動揺した親の気持ちにしっかりと寄り添おうとしていると思います。この報道や同様の報道が偏っていて、第三者の電話等で攻撃された教員方が疲弊してしまわないことを切に願っています。教員や学校の対応に問題があったとしても、平等な取材があれば客観的に議論できたのにとも思います。

Yahoo!ニュースではコメント欄でエキスパートの碓井真史氏、薬師寺泰匡氏が中立意見を書いているので、それも含めれば公正だと感じました。限られた場ではありますが。


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