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ヨーロッパ文化教養講座(2023年10月31日 内田光子 ミューザ川崎 鑑賞記)

2023/11/1

レジェンド、内田光子さんのモーツァルトのコンサートが、マーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)のメンバーと共に、昨夜ミューザ川崎で行われた。

2020年10月に同メンバーで来日予定で切符を取ったものの、コロナ禍で中止になり、それから3年してやっと念願叶い聴くことができた。

日時: 2023年10月31日 開場:18時 開演: 19時
会場:ミューザ川崎
演奏者: 指揮及びピアノ 内田光子
オーケストラ: マーラー・チェンバー・オーケストラ

プログラム:
モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番 ハ長調 K503
シェーンベルク:室内交響曲第1番 作品9
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K595
アンコール:
シューマン:謝肉祭 第17曲 「告白」

コメントと感想:

1. 座席は、最前列の舞台に向かって左側。ミューザ川崎の低めの舞台に遮るものもなく、理想の座席と言える。周りは、もう半世紀以上もクラシックに親しんでいると推測される、ご高齢の方々がかなりいた。

2.開演時間5分ほどして、MCOのメンバーが入場。平均年齢は若そうだ。ほとんど白人で、東洋人の顔をしている女性の第2ヴァイオリニストが1人だけいた。
ピアノはスタインウェイ。弾き振りのために蓋が外され、中央に設置。

3.チューニングの後、しばらく間があって、レジェンド内田光子さん左手から登場。銀色のローヒール、ブルーのノースリーブのドレスに透き通ったブルーガウンを着て、いつものようにとてもスリム、背筋をぴんと伸ばし登場する。とても74歳とは思えない、若々しい姿。存在感が半端ない。
椅子に座って、メガネを掛けると立ち上がる。

4.K503が始まる。最初の音からミューザ川崎の豊かな響きの中に弦楽器、管楽器のドーソソーの音が綺麗に鳴り響く。そして内田先生のピアノの音が自然に加わる。

5.決して鍵盤を大きく叩かず、オーケストラの響きを邪魔にしない程度の音量で、しかも一音一音をしっかりと弾いている。カデンツァはモーツァルトの自作がないので、先生ご自身の作曲と思われるが、曲全体的とも違和感なく繋がる。
*反田君+JNOの福岡公演のときに感じた、ピアノの音が上に抜ける現象は、このホールでは感じなかった。

6.レジェンドの姿を至近距離で、拝見できたので小生も緊張したのか、演奏が始まって、しばらくは、ぼっとして全体の音が耳に入らなかった。

7.2楽章位から徐々にそれぞれの楽器の音が、ピアノの音と、美しく有効かつ効果的に一体となって交わっていることを堪能できた。

特に、3楽章の後半部分のフルート、ホルン、オーボエ、コントラバス等との「協奏」が素晴らしく、心に迫り、フィナーレでは自然に涙がこぼれた。

8. 一曲目のカーテンコールが終わりオーケストラが楽屋に戻ると、舞台のピアノは傍へ退けられ、楽譜台が、立ち弾き用に高く上げられる。

弦楽器5人、管楽器10人の指揮なしの、シェーンベルク。
作品9なので、(未だ小生には、訳の分からない12音階音楽以前)前衛的ではあるが、15人の熱演を堪能できた。
会場からもブラボーがあった。

9.休憩後K595。この曲は、小生が22才でフロリダに語学遊学した頃、グルダ+アバドのレコードでよく聴いていた。
今でもモーツァルトのピアノ協奏曲では一番好きな曲。
その後は、ブレンデル+マリナーが愛聴板に代わったが、数回聴いた生演奏ではいつも聴き足りない感じが残ってしまっていた。

10.今回の内田先生の演奏を聴いて、その聴き足りなさ感が、少しわかった気がした。つまり、名作映画と同様、見終わった瞬間は興奮のピークではないが、後でジワジワとくるということだろう。

11.K503と違ってティンパニーもなく、第2楽章を典型とする静謐な音楽、K503を金閣寺とすれば、K595は銀閣寺と言うべきなのではないだろうか。

12.こういう感じにさせてくれるというのが、名演奏のあかしなのだろう。今回、期待以上だったMCOのメンバーは、とにかく音が良い。ホルンの二人も終始音がしっかりしていて、ヒヤヒヤすることもない。
やはり本番の一流オーケストラだと思った。

13.鳴り止まぬ拍手に応えて、内田先生は、コンサートマスターの耳元で、小声で何かを囁き、会場に向かって右手で少しというジェスチャーをした後、椅子に座ってアンコールの短い曲。
終演後、シューマンの曲だとわかったが、クララ・シューマンももしかしたら、コンサートでモーツァルトの協奏曲を弾いた後に、夫の曲をアンコールで弾いたかもしれないなと思った。

14.内田先生もテクニックや体力は若い頃には戻れないのは人間だから仕方ないが、代わりに侘び寂びを感じるレベルまで到達している(と、小生は思う) 今の演奏を未だ未だ続けて欲しいと心から思った。

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