2022/09/03 オンライン取引スペース
ヤフオクに関するスペースで触れた記事や使った資料を置いておきます。参考にされてください。
■これまでを振り返って
最初に書いた記事はこちら。
その翌年もちょっとだけ目線を変えて同じようなことを書きました。
イモリの取引についても書きました。
規制のあり方(タイミング)についての記事はこちら。
規制や保護の際には波及先のことも考えようという話も。この場合はアメザリ規制がニホンザリガニの取引増加につながる可能性を指摘しました。
環境省とヤフオクが昨年12月に動いた時の記事です。
ヤフオクが動いた背景を聞いてみた記事です。
さらに識者からコメントをもらった記事です。
なお、一連の取材では、以下の方々に特にお世話になりました。記して感謝申し上げます(本人のご了承をいただけた方のみ)。
工房うむきさん https://twitter.com/kobo_umuki
オイカワ丸さん https://twitter.com/oikawamaru
オワコマさん https://twitter.com/owarikomakix
あげはさん https://twitter.com/salamandrella
野遊びちゃらんぽらんさん https://twitter.com/yamaF222
Natchanさん https://twitter.com/yoshitriton
ゲンゴロウ飼育ブログさん https://twitter.com/gengo6com
■背景を考えてみる
今回の措置の背景として、これは生物多様性の保全の問題であり、生物多様性は人類の存続の基盤であるという前提を踏まえた上で見ていきたいと思います。
オンライン取引される野生生物の多くは野外採集個体、つまり直接捕獲・採取されています。
生物を捕まえること「直接の採取」は生物多様性損失の5大要因の一つで、陸域、淡水域では、生息地の破壊に次ぐ脅威とされています。
一方で、保護区の設定や、持続不可能な利用をやめたり、違法採取や取引を管理したこと、侵略的外来種対策などで、複数の種の絶滅を防ぐことができたともしています。1996~2008 年の間に行われた保全への投資によって 109 か国で哺乳類と鳥類の絶滅リスクが 29%下がったのではないかとされています。
JBO3では、直接の採取は、第1の危機として、開発などと同じカテゴリーに入れられています。そして、里山の部分では、「高度経済成長期以降、国民の生活が豊かになったことでペットや園芸の需要が急速に増加し、希少種等一部の森林性動植物(昆虫類、ラン科植物等)の観賞目的の乱獲・盗掘が問題となっている」と指摘されています。
野生生物の持続可能な利用のIPBESアセスメント報告書も最近出ました。IUCNのレッドリストに記載された10分類群の10,098種の評価を見ると、野生種の少なくとも34%は持続可能な形で利用されているということです。一方で、持続不可能な採集や捕獲は、上記10分類群の準絶滅危惧種と絶滅危惧種の28〜29%で、絶滅リスクを上昇させています。
もうちょっと知りたい人はこちらへ。
生物多様性の損失は、これから5~10年で最も懸念されるリスクの一つ、気候変動対策の失敗、異常気象に次ぐ3位となっています。
もうちょっと知りたい人はこちらへ。
過去のGRRでも結構上位に入っています。また、現代に生きる人たちの「ツケ」を将来世代が負担するという不公正の問題もあります。昨年のGRRでは、「若者」がフォーカスされていて、より環境問題への懸念が強いことも浮き彫りになりました。
さて、やっと野生生物の取引の話です。日本国内の包括的なデータはちょっと見当たらなかったので、主に海外や、国際取引の話をしていきます。
ちなみに米国の状況を自然保護団体が調べた調査によると、オンライン取引のうち生体は19%。ただし、日本より多くの分類群が取引可能なようです。
合法的な国際取引は、過去14年間で5倍以上に増加し、2019年には1070億ドルと推定されています(漁業と林業はのぞく)。
ちなみに、違法取引市場は年間70億~230億ドル(漁業と林業をのぞく)
(参考:先ほどのIPBESの持続可能な利用の報告書によれば、漁業と林業も入れると、違法取引市場は690億~1990億ドルに膨らみます)
違法取引のオンライン化には懸念が高まっていますが、監視対象は主にCITES対象種の国際取引で、オンライン取引への監視や規制の実効性が問われています。
合法的な取引であっても、「いかがなものか」という事例は多数あります。いろいろなオンライン取引の問題ある実例を紹介しておきます。
まずはゲンゴロウ飼育ブログさんの記事。
ヤフオクでは魚類も取引されています。オヤニラミ、アカメ、ゼニタナゴ、ニッポンバラタナゴ、ホトケドジョウ…
タイでカワウソのオンライン取引を14カ月間監視。160件、337匹の取引に関する投稿があった。そのうち81%がアジアツメカワウソ、19%がコツメカワウソ。赤ちゃんは53%だった。取引価格は平均78ドル。
香港でのインターネットフォーラム(掲示板のようなもの?)で、カメの生体販売データを集めた。絶滅危惧種67種を含む136種、14,360個体の取引があった。CITEの付属書に記載されているのは77種で、その36%は違法に取引された可能性が高い。絶滅危惧種やWD、珍品は高く取引されていた。
東南アジアでは、両生類が生息地の喪失の悪影響を受けており、捕獲がさらなるプレッシャーになっている。インターネットやソーシャルメディアでの取引の状況を調べたところ、59 種の無尾類と6種の有尾類についての投稿を確認、うち5種がCITESの対象種だった。
THE INTERNET-BASED SOUTHEAST ASIA AMPHIBIAN PET TRADE
https://www.traffic.org/site/assets/files/13362/seasia-amphibian-pet-trade.pdf
2010年にサボテンを事例として電子商取引を調査。24 人の販売者を半年、毎週 2 回、付録 I に記載されているサボテンが 1000 個販売されるまで監視。許可証が発行されたサボテンより、オンライン取引されたサボテンの方が件数、種数、輸出国、輸入国もずっと多かった。つまり、違法取引ばかり。
Regulating Internet Trade in CITES Species
https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/cobi.12019
アフリカではクラシファイドプラットフォーム広告を介した取引が盛んになっていて、匿名性が高いことや、法執行がリアルな市場を対象にしているなどの不備から、違法取引の温床になっている。CITES掲載種も付属書I掲載のアフリカハイイロインコを始め、付属書IIのパタスモンキーやベルベットモンキーなども売られていた。広告の79%がナイジェリア、次がカメルーンで見られた。ただ、カメルーンの販売者のプロフィールを調べると、オンライン広告を出す人31%は中国で、他にもアメリカやイギリスなどに住んでいた。
2013~2017年に、アフリカ15カ国のヘビ42種2269匹の販売広告を確認。多くは毒蛇だった。取引が盛んだった23種はCITES非掲載種。
Exploring the international trade in African snakes not listed on CITES: highlighting the role of the internet and social media
https://link.springer.com/article/10.1007/s10531-018-1632-9
ヨーロッパではランのSNS取引が盛ん。12 週間ソーシャルメディアのグループを監視したところ、55,805 件の投稿が確認され、そのうち8.9%は植物の販売に関するもので、その 22 ~ 46%が野外で採取されたランにかんするものだった。
Estimating the extent and structure of trade in horticultural orchids via social media
https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cobi.12721
新種記載された直後は特に脆弱。
絶滅危惧種と言われることが「需要」を喚起することも。
Endangering the endangered: The effects of perceived rarity on species exploitation
https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1755-263X.2008.00013.x
日本のクワガタでも同じことが…
■今回のヤフオクの措置と意義
こうした経緯や背景を踏まえて、9月29日から始まるヤフオクの対応を考えてみたいと思います。
参考資料
(2)種の保存法に基づいて指定された国内希少野生動物種(当該動植物種の卵や種子を含みます)
【ご注意ください】
・特定第一種国内希少野生動植物種も含みます(特定国内種事業の届出の有無を問わず、禁止とします。ただし、ストア出店者は特定国内種事業の届出があれば特定第一種国内希少野生動植物種に限り出品が可能です)
・国内希少野生動植物種の指定対象に卵や種子が含まれていない場合であっても禁止とします。
(5)環境省が定めるレッドリスト(海洋生物レッドリストを含みます)に掲載されている絶滅危惧種または準絶滅危惧種に該当する動植物種(当該動植物種の卵や種子を含みます)
【ご注意ください】
ストア出店者は人工的に繁殖された個体に限り出品が可能です。
(9)法令等の規制対象に限らず、社会通念上相当な範囲を超えて入手または出品されており生態系や環境に悪影響を及ぼすおそれがあると当社が判断した動植物種(卵や種子を含みます)
【例】
・出品数量が非常に多いもの(卵塊を含みます)
・特定の地域において希少であるもの
・捕獲方法が不適切であるもの
など
※ご注意ください。「改定後、特にご注意いただきたい点は以下のとおりとなりますのでよくご確認ください」
・有精卵について、食用の有精卵以外は出品禁止です。
・特定第一種国内希少野生動植物種を含む、国内希少野生動物種は一律出品禁止です。
・環境省が国内希少野生動植物種に追加予定として情報公開した動植物種は出品禁止です。
・法令等の規制対象でない動植物種でも、特定の地域において希少な生物や、捕獲方法が不適切で生態系や環境に悪影響を及ぼす恐れがあると当社で判断した出品は削除される場合がございます。
・オオクワガタやニホンザリガニなど、レッドリストに掲載されている絶滅危惧種、および準絶滅危惧種に該当する生き物は出品できません。
※出品する生き物が対象種でないか、事前にご確認をお願いします。
ポイントは①RLの出品禁止、②種の保存法の拡張(特定第一種の禁止、卵や種子も禁止、国際希少野生動植物種の取り扱い)、③普通種もケースバイケースで判断する、④業者のCB個体はOK、の4点かと思います。
①は絶滅の恐れのある生物に対する取引およびその前提となる直接採取に対する措置として、②は現行法における「エアポケット」を埋める措置として、③は生態系保全という観点から、④は取引の持続可能性と社会的責任という観点から、それぞれ意義があることではないかと思います。もちろん、これ以外の視点もあると思います。
また、全体として、1.絶滅の恐れのある生物への採集圧の低減、2.乱獲や不適切な採取の抑制、3.優良事業者の保護、4.都道府県RLなどへの広がりの可能性、などが感じられます。割とよく作り込んであると思います。どんな人が知恵袋だったのでしょうか。
一方で、Ⅰ.駆け込み需要、Ⅱ.飼育放棄、Ⅲ.偽装による売り抜け(CBかWDか)、Ⅳ.監視の実効性、Ⅴ.取引のアングラ化、Ⅶ.需要の外来種へのシフト(例:日本産タナゴ→タイリクバラタナゴ、オオクワガタ→外国産オオクワガタ)などは課題となりそうです。
それゆえ、社会や専門家の側からも、一、都道府県や基礎自治体のRLに関する情報提供、二、違反出品の通報、三、さらなる措置の改善に向けてエビデンスの積み上げ、が求められると思います。
なお、今回の措置を受けて、オンライン取引あるいは生体の取引そのものを考える必要性はもちろんですが、少なくとも科学的根拠に基づく規制の強化として、「生態系被害防止外来種リスト」掲載種は取引禁止にするのはどうかと思っています。
国内外来種の対応としても注目されます。ここに生態系被害防止外来種リストが加われば、国外外来種対策にもつながります。最後はペットについても切り込むことで「第三の外来種」についても問題提起して欲しいところですが、それはまだ先のことかもしれません。
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