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水田や淡水湿地でのシギ・チドリの餌と生息環境

シギ・チドリは干潟でカニやゴカイを食べることがよく知られているが、水田など淡水環境で何を食べているか、ほとんど耳にしたことがない。大阪市の埋立地、夢洲での淡水湿地の再生を視野に入れて、生息環境の設計のために、文献を探した。

 発見できた日本の文献は少なく、アメリカやヨーロッパでより多くの文献があり、処理区と対照区を比較した研究も見られた。

 ここでは、まず日本の文献を報告する。

渡辺(1991)埼玉県大久保農耕地におけるムナグロの渡来状況.Strix 10:107-114

埼玉県大宮市と浦和市の荒川河川敷左岸堤防内外に位置し,区画整理が進んだ水田80haが3区画ある

春、3月末から5月下旬まで、注水後の水田で見られた

秋、初期(8月20日まで)夜間に芝生の運動場に採食のため飛来。最盛期(8月下旬から9月上旬)稲刈り後の水田。

北沢・渡辺(1992)新潟県大口ハス田におけるシギ・チドリ類の渡来状況.日本鳥類標識協会誌 7:40-46

新潟県南蒲原郡中之島町南部の蓮田で1990-1991年3-5月に調査。

コチドリ.ムナグロ.タゲリのチトリ料3種, トウネン、ウズラシギ、ハマシギ、エリマキシギ、オオハシシギ、シベリアオオハシシギ、ツルシギ、タカブシギ、イソシギ、タシギ、オオジンギのシギ科目種.アカエリヒレアシシギのヒレアシシギ科1種が記録された。高細・疲辺(1983)によれば.1981年12月から1982年5月まででチドリ科3種、シギ科9種が記録されている。この時に観察され,今回の調査では確認できなかった種は,イカルチドリ.アオアシシギ,クサシ羊,キアノン半の4種類であった

 コチドリは堤防の砂利道で産卵。ツルシギは春に約1000羽観察。蓮田と田植え前後の水田。

石川・中村(1998)新潟県下におけるシギ・チドリ類の採食行動の比較と生態的分離.日本鳥学会誌 36:159-171

新潟県中頸城郡頸城村および大潟町にわたる頸城平野と呼ばれる水田地帯で、春の調査は1985年2月20日から同年6月1日まで,秋の調査は1985年8月4日から同年11月4日まで行なった.

春季はキョウジョシギ、トウネン、ウズラシギ、ハマシギ、ツルシギ、アオアシシギ、タカブシギ、キアシシギ、チュウシャクシギ、タシギ、コチドリ、ムナグロ、ケリ、タゲリを、

秋季は、トウネン、ハマシギ、コオバシギ、ミユビシギ、ヘラシギ、エリマキシギ、キリアイ、アカアシシギ、アオアシシギ、イソシギ、ソリハシシギ、オグロシギ、タシギ、コチドリ、メダイチドリ、ムナグロ、ダイゼンを記録した。

春季の採食場所は,チドリ科がところどころ薄く水のついている湿った水田を主としているのに対し,シギ科は田植えのため入水されて約3-4cm位水のついた水田を主としていた.

秋の渡り期にはシギ・チドリ類は春より多様な環境にあらわれた.すなわち、秋は水をぬいた溜池(重箱池)の砂泥地、砂丘ベりの池(鵜ノ池)の砂泥地、河口部(関川〉の小砂州などであった.

ツルシギやアオアシシギは水の中のオタマジャクシや小魚など,かなり大きめの餌を採食する傾向、シギ科がしめっている水際から水の方、浅く水のついたところにかけて採食ゾーンを持っていること、それに対してチドリ科は逆に水から離れた乾いているところに採食ゾーンを持っていることは、多くの渡り期の採食行動の研究に共通してみられる(Recher 1966, Ashmole 1970, Baker & Baker 1973, Baker 1974, Evans 1976, Stenzel, Huber & Page 1976, Burger et al.1977).

銭・崔・王(1985)は揚子江河口部にいるチドリ類について,その胃内容分析から草本の種子をよく食べていることを述べている.

引用文献

Ashmole, M. J., 1970. Feeding of Western and Semipalmeted Sandpipers in Peruvian winter quarters. Auk 87: 131-135.

Baker, M. C., 1974. Foraging behavior of Black-bellied Plovers (Pluvialis squatarola). Ecology 55: 162-167.

Baker, M. C., & A. E. M. Baker, 1973. Niche relationships among six species of shorebirds on their wintering and breeding ranges. Ecol. Monogr. 43: 193-212.

Burger, J., M. A. Howe, D. C. Hahn, & J. Chase, 1977. Effects of tide cycles on habitat selection and habitat partitioning by migrating shorebirds. Auk 94: 743-758.

Evans, P. R., 1976. Energy balance and optimal foraging strategies in shorebirds: some implications for their distributions and movements in the non-breeding season. Ardea 64:117-139.

銭国禎・崔志輿・王天厚,1985.長江口,杭州湾北部的鹬形目鳥類群落. 動物学報31:96-97.

Recher, H. N., 1966. Some aspect of the ecology or migrant shorebirds. Ecology 47: 393-407.

Stenzel, L. E., H. R. Huber, & G. W. Page, 1976. Feeding behaviour and diet of the Longbilled Curlew and Willet. Wilson Bull. 88: 314-332.

前田(1998)農林水産技術研キュージャーナル21(12):27-32

茨城県南部において70haの水田を調査した結果、19種の水鳥が観察された。水鳥の種数は湛水が始まるとともに増加し、8月下旬に最大となった。収穫後の9月以後は減少し、冬季にはほとんど見られなかった。タシギは水路で密度が高くかった。8月にシギ・チドリ類が観察されたのは湛水されていて植生のない休耕地であったが、タマシギは水があって丈の低い草が覆う水田で見られた。コチドリは耕起地、ケリは刈跡で多く見られた。

渡辺(2001)春期の水田におけるムナグロの採食地選択.Strix 19:181-185

埼玉県大宮市から浦和市にかけての大久保農耕地で1995年4-5月に調査。

4/23田植え前、秋耕田、注水田、代かき田のうち、ムナグロは注水田に多かった

5/3採食個体はすべて注水田で見られた。

渡辺(2002)春期の水田で見られたキョウジョシギによるミジンコの採食例.我孫子市鳥の博物館調査研究報告10:49-51

1996年5月6日茨城県岩井市の田植え終了後の水田でキョウジョシギがタマミジンコを食べていた

渡辺朝一(2003) 春の渡り期の農耕地におけるツルシギの採食地選択.Strix 21: 125–130

新潟県南蒲原‘郡中之島町に位置する大口ハス田で、3月28日、4月18日,5月5日,5月16日に調査した。

ツルシギはハス田に多く、水田には少なかった。

渡辺朝一(2005)春期の農耕地で見られたツルシギの採食行動.日本鳥学会誌 54(2):79-85

新潟県南蒲原郡中之島町の大口ハス田

「調査地にあるハス田では,8 月からごく一部でレンコンの収穫が開始され,秋,冬を通じて少しずつレンコンの収穫が続けられる.しかし,レンコンの収穫が最も盛んに行われるのは3 月下旬から4 月にかけてであり,その直後にハスの植え付けが4 月から5 月にかけて行われる.この結果,ツルシギの渡来期における調査地のハス田の状態は,1) レンコン未収穫のハス田,2) レンコンを収穫したがまだハスを植え付けていないハス田,3) レンコン植え付けが終了したハス田の三つに分類できる.」

1992 年3 月8 日から5 月23 日までの間に18 日間,1993 年3 月13日から5 月16 日までの間に18 日間

主に採食行動を記録。水が深いと首振り型、浅いとつつき型の採餌。ユスリカ、小型魚

渡辺(2007)関東平野の水田で春期に採集したキアシシギのペリット内容.Strix 25:61-70

栃木県真岡市から二宮町にかけての水田と茨城県岩井市から水海道市にまたがる水田地帯で調査した。1998年と1999年の5月中旬から下旬にキアシシギが休息していた畔に落ちていたペリット143個を回収。ミズアブが最も多く次いで甲虫類が検出できた


筆者はこれまでに、ムナグロ Pluvialis fulva やタゲリ Vanellus vanellus が貧毛類 Oligochaeta を,チュウシャクシギ Numenis phaeopus がアメリカザリガニProcamparus clarkii を採食していたことを発表した(渡辺 2005,2006a,b).

日本野鳥の会(1975)では,1974年 8月に千葉県市川市の干潟で採食中のキアシシギを捕獲し,その胃内容物としてチゴガニ Ilyoplax pusilla ,ヤマトオサガニ Macrophthalmus japonicus の体の一部をあげている.また,Kawaji & Shiraishi(1979)では,1975年の秋期に有明海北岸・大和干拓地周辺の干潟で 5羽のキアシシギを捕獲し,そのうち 2羽に胃内容物が認められ,これらはすべて甲殻類(カニ類)の切片であったとしている.

前田・吉田(2008)水田の冬期湛水がもたらす鳥類への影響.日本鳥学会誌 58:55-64

国内において水田のような浅い淡水湿地に依存して越冬する水鳥は,ガンカモ,コウノトリ,ツル,チドリ目を中心に約30 種(迷行種は除く)みられる(中村・中村1995b などをもとに分類)。

調査は茨城県南部, 美浦村および江戸崎町(現:稲敷市)に含まれる余郷入干拓地周辺の湛水田と蓮田で実施した.

その結果、湛水田では、コサギ、タゲリ、タシギ属、カルガモ、ハマシギが、蓮田ではコチドリ、タゲリ、タシギ属、チュウサギ、コサギ、アオサギ、コガモ、ユリカモメ、カワセミ、ゴイサギ、カルガモ、コガモが見られた。

餌動物は、イトミミズ、ユスリカ、その他昆虫は蓮田で多く、クモは非湛水田のみで見られ、貝類、アメリカザリガニ、ヒル類は湛水でで多かった。

稲垣栄洋ほか(2008)静岡県菊川流域における植生の異なる休耕田にみられる動植物.日緑工詩 34:269-271

静岡県菊川流域の休耕田で夏季(2007年7月~8月)と冬期(2007年12月)に見られる鳥

湿地低草植生でタマシギ、コチドリ、ケリ、タゲリ、ヒバリシギ、タカブシギ、タシギを記録

中村麻里子・鮫島正道(2010)沖永良部島におけるセイタカシギの繁殖生態.Nature of Kagoshima 36:11-181

調査地は、鹿児島県大島郡和泊町谷山にある洪水調整池。水深が深い所で約30 cm位。

6月9日卵を発見、6月12日ヒナを発見。巣は水中に泥や小石等を積み上げた構造で,卵座には木の枝や水草を敷いていた.孵化後51日で巣立ち。

本種の食性は動物質でありトンボやカエルの幼生,小魚等の採餌を確認した。

繁殖適地の条件を挙げると①採餌可能な浅い水辺や休息可能な陸地がある多様な水辺環境,②人や捕食者である小型哺乳類などの進入がない環境,③水位の変動が少ない環境,④餌生物の生息に適した水生植物が生育出来る環境(池の底質が砂泥)などが挙げられる.

高畑(2009)千葉県印旛沼水系の河川流域の水田で観察された鳥類.東京歯科大学教養系研究紀要 24:12-22

4月下旬から約1か月の間にキアシシギ、チュウシャクシギ、キョウジョシギが観察され、コチドリも観察された。コチドリは水田で採餌。チュウシャクシギは数十羽が水田で採餌、畔に並んでいた。キアシシギは数羽が水田や畔で採餌、キョウジョシギは十数羽が水田や畔で採餌。

京都洛西の野鳥

シギ・チドリの餌として、
ケリがスクミリンゴガイを食べる
ヤゴ
ユスリカは小型のシギ・チドリが好む
ミミズはジシギ類の主要な餌
などの記録があります。


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