干潟について 3

干潟の生物相とネットワーク

干潟の底泥に住む生物をベントス(底生生物)とよんでいるが、1mmの目のふるいを通る小形の生物をメイオベントス、それより大きな生物をマクロベントスと区別することもある。干潟における食物網は、草原や森林のように生産者である植物が出発点であるのとはやや異なっている。マクロベントスは無機栄養塩を利用して増殖する藻類や植物プランクトンだけでなく、有機物であるデトリタスやデトリタスを分解して増殖する細菌を餌としている。したがって、マクロベントスは消費者と分解者の両方の役割を果たしている。

干潟の砂泥に穴を掘ってカニなどの甲殻類、ゴカイのような多毛類、二枚貝が生息し、泥表面には藻類や巻貝が生息する。こうしたベントスの生息は、底質、水中の有機物濃度、塩分濃度、容存酸素濃度、潮位高などによって決まる。干潟の上部には移動力があり、陸上生活が可能なカニや巻貝の一部が利用し、下部には二枚貝が多い。底質の粒径によって、生息する底生動物は異なっている。アサリなどは砂質を好み、多毛類はより泥質を好むが、 多毛類のなかでもゴカイは比較的シルトの割合の少ない場所、 ミズヒキゴカイはシルトの割合の多い場所を好む5)

干潟のカニでは、ヤマトオサガニは泥の多い場所、 コメツキカ、ニやハクセンシオマネキは砂の多い場所を好む。二枚貝は砂干潟には、ソトオリガイ、泥干潟にはオキシジミ、中間的な場所でオオノガイなどがみられる。有機物の多い場所や汚濁のすすんだ場所にはホトトギスガイが多い。巻員ではへナタリやウミニナ、捕食性のイボニシなどがみられる。甲殻類では、ユビナカ、、ホンヤドカリ、ニホンスナモグリ、ヨコエビの仲間などがみられる。多毛類にも多くの種があり、それぞれ固有の環境に生息する。たとえば汽水域にはゴカイが多く、より塩分濃度の高い場所ではツパサゴカイが増加する。また、大都市港湾域など有機物が多く、酸素濃度が低い場所にはイトゴカイやヨツバネスピオなどが生息する。

底生動物の摂食様式はさまざまで、草食(ウニ、タマキビガイなど)、肉食(イソギンチャクやイボニシ)、屍肉食(アラムシロガイ、堆積物食(多毛類、端脚類)、泥食(ナマコ、タマシキゴカイ)、懸濁物食(アサリ、ケヤリ科の多毛類)などがある。ウミニナは泥表面のケイ藻などを食べる。

こうしたベントスを求めて、シギ、チドリのような鳥類が干潟を訪れる。シギ、チドリは繁殖地では、おもに昆虫を捕食しているが、渡りの途中や越冬地では干潟の底生動物を捕食する。その食性や採餌方法は種によって異なっている。採餌方法には視覚によるつつき法と感触によるさぐり法に分けられる。チドリはおもにつつき法、シギはさぐり法を採用している。つつき法ではおもに地表面で採餌するためくちばしは短しさぐり法をとる種ではくちばしが長い。

ベントスは魚類の餌ともなる。マハゼ、 トビハゼはゴカイなどを捕食する。ボラは体長40cmくらいまでを浅海ですごす。

干潟辺縁や海岸近くの汽水の湿地である塩性湿地は、塩水に耐性を示す塩生植物が生育している。塩生植物は、茎や葉が多肉化しているものが多い。代表的な種は、北日本では、アッケシソウ、 ウミミドリなど、本州以南では、 フクド、ハママツナ、シチメンソウなどである。アッケシソウは瀬戸内海沿岸の塩田跡にも隔離的に分布しているが、江戸時代に塩とコンブの交易によってもち込まれたものだと考えられている。

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