鳥はどこまで近づいたら逃げるか:オーストラリア編
Weston, M. A., McLeod, E. M., Blumstein, D. T., & Guay, P. J. (2012). A review of flight-initiation distances and their application to managing disturbance to Australian birds. Emu-Austral Ornithology, 112(4), 269-286.
鳥の生息場所への人や車両、ペットなどの接近は鳥に対して悪影響を及ぼす可能性がある。そうした接近に対して鳥が飛び立つ距離、飛翔開始距離(FID)は種によっても異なり、保護区の緩衝地帯を計画するうえで必要な数値である。
本論文は、オーストラリアの鳥類におけるFIDと、FIDを媒介する可能性のあるいくつかの要因について簡単にレビューしている。
体重は種間のFIDのばらつきのほとんどを説明する(Blumstein 2006)。少なくとも10個の推定FIDを持ち、十分な体重データを持つ種のFIDと体重(ともに対数)の回帰からの残差は表1に示している。正の残差値が大きいほど、人間のアプローチに最も敏感な種であり、負の残差値が大きいほど、人間のアプローチに最も敏感でない種であることを示す。
FIDと体サイズが正の相関を示すという一般的な知見には,いくつかの理由が考えられる。第一に,体が大きい種は捕食者から発見されやすいため,より早く飛行反応を開始する(Holmes et al. 1993)。第二に,体の大きな種が小さな種よりも機敏さや空気抵抗に劣る場合,逃げるのに多くの時間や空間を必要とする可能性がある (Fernández-Juricic et al. 2002)。第三に、小型の種は比較的高いエネルギー需要を満たすために、より多くの採餌時間を必要とするため、採餌時間を最大化するために、撹乱に対して遅れて反応する可能性がある(Bennett and Harvey 1987; Blumstein 2006)。その他の可能性としては、人間がより大型の種を差別的に狩猟・捕獲してきた可能性や、大型の種はより長く生きる(すなわち、平均的に残存生殖能力が高い)ため、認識されている脅威と関連したリスクを最小化できる可能性などがある。
集団サイズもFIDに影響し、集団サイズが大きいほどFIDが大きい傾向がある。
学習もFIDに影響し、マミジロカルガモでは餌付けされている都市公園では実際に人間に接近するが、狩猟されている地域では何百メートルもの距離をあける。人の通行量の多い生息場所ではFIDが小さくなる
論文では、FIDの利点や問題点などが検討されている。最後に、多くのオーストラリア人は人間の妨害に対する緩衝地帯の必要性を認めているが(Glover et al. 2011)、人間を排除する大きな緩衝地帯は、共存を脅かす(Clarke 1965; Sekercioglu 2002)。さらに、人と野鳥が出会う経験を排除することになる。しかし、FIDは、侵入禁止水域以外の方法で撹乱を管理するための情報を提供することができる。例えば、フェンスや運河などの障壁によって人間の存在範囲を制限することや予測可能で脅威のない行動を促すことによる慣れの促進は、撹乱に対する管理上の対応として興味深いとしている。