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花の形の進化を探る

花の形の多様性は古くから知られていましたが、それがどのように進化してきたのかは十分に理解されていませんでした。オーストリア科学アカデミーのアグネス・デリンガー博士らの研究チームは、CT画像から3Dモデルを作成し、花の形態を幾何学的形態測定学の手法で定量化しました。これにより、花の複雑な3次元形態の進化を詳細に追跡することが可能になったのです。

研究チームが注目したのは、花の形を決める要因としての「発生」と「機能」の役割です。一般的に動物では、体の部位間の関係性(モジュール性)は発生によって決まることが多いのですが、花ではその限りではありませんでした。むしろ、送粉者への適応という「機能」的な要請によってモジュールが形成されていたのです。

例えば、ハチ媒花からほかの送粉者へとシフトした種では、花冠の形は素早く変化していました。花冠は送粉者を引き付ける機能を担っているため、送粉者が変われば迅速に適応進化する必要があるからです。一方、ハチの振動によって花粉を放出するという特殊な機能を持つ葯は、構造的な制約から変化しづらい「モジュール」になっていました。この結果は、機能モジュールが独立に異なる速度で進化できることを示唆しています。

メリアニエ連の種は、ハチからほかの送粉者への移行を何度も独立に遂げています。ハチ媒から鳥媒への移行は、被子植物の進化の歴史の中でも稀なできごとですが、強いモジュール構造を持つハチ媒花の状態にあったからこそ、送粉者シフトが可能だったのかもしれません。

この研究は、現存の花の多様性がどのように生まれたのか、そのメカニズムの一端を説明するものです。花はモジュール性を獲得することで、送粉者の変化という選択圧に適応できる「進化可能性」を高めていたと言えるでしょう。被子植物が地球上の様々な環境に広がっていく上で、このような仕組みが重要だった可能性が示唆されました。

タイトル:Modularity increases rate of floral evolution and adaptive success for functionally specialized pollination systems
URL:https://www.nature.com/articles/s42003-019-0697-7
機関:University of Vienna
著者:Agnes S. Dellinger, Silvia Artuso, Susanne Pamperl, Fabián A. Michelangeli, Darin S. Penneys, Diana M. Fernández-Fernández, Marcela Alvear, Frank Almeda, W. Scott Armbruster, Yannick Staeder, Jürg Schönenberger

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