ニシローランドゴリラによる硬い種子食が示す類人猿の食性進化
ニシローランドゴリラといえば、強靭な顎と歯で大量の葉や果物をバリバリと食べるイメージが強いかもしれません。 しかし、2019年の研究で彼らはその頑丈な体つきを活かして、非常に硬い種子を季節的に食べていることが明らかになりました。
従来のイメージを覆す発見
これまで、ゴリラの食性は主に葉や果実といった繊維質で比較的柔らかい食物から成ると考えられてきました。硬い種子を食べる行動は一部のチンパンジーなどで確認されていましたが、ゴリラでは稀なケースとして認識されてきました。
しかし、ガボン共和国、ロアンゴ国立公園に生息するニシローランドゴリラの観察から従来のゴリラの食性のイメージを覆す行動が確認されました。2015年から2018年にかけて、研究者たちは1つの群を対象に6,300時間以上にも及ぶ観察を実施しました。その結果、驚くべきことにこのゴリラの群れは特定の季節になると、非常に硬い殻を持つことで知られるCoula edulis(クーラ・エデュリス)という樹木の種子を食べていることが分かりました。
硬い種子も大丈夫!その驚きのパワー
クーラ・エデュリスの種子はその栄養価の高さから、チンパンジーの間ではよく食べられています。しかし、この種子を割るには、並大抵の力では足りないこともよく知られています。実際に、クーラ・エデュリスの種子の殻は非常に硬く、過去の研究ではその殻を割るためには2,700ニュートン以上の力が必要だったという報告もあります。これは、一般的な果実の種子と比較して桁違いの強度です。
今回の観察で、ゴリラたちはまず前歯を使って果肉を取り除き、その後、奥歯を使って硬い殻を割って、中の栄養価の高い胚乳を食べていました。その割るスピードは目を見張るものがあり、硬い殻をものともせず次々と種子を平らげていく様子が観察されました。
研究チームは、ゴリラがどのようにしてこの硬い種子を割ることができるのかそのメカニズムを解明するために、クーラ・エデュリスの種子の殻の強度試験を行いました。その結果、殻は非常に硬い一方で、ある程度の力が加わると一気に砕けやすい性質を持っていることが明らかになりました。ゴリラの強靭な顎と歯はこの殻の特性を巧みに利用し、効率的に種子を割ることに成功していると考えられます。
ゴリラの食性進化と人類への影響
今回の発見はゴリラが私たちが考えていた以上に幅広い食性を持ち、環境に応じて柔軟に対応できることを示しています。また、硬い種子を食べる行動はゴリラの社会において学習によって受け継がれている可能性も示唆していて、彼らの文化的な行動の一端を垣間見ることができます。
さらに、この発見はゴリラの進化だけでなく、私たち人類の進化を理解する上でも重要な意味を持つと考えられます。初期人類の化石を分析すると、時代が新しくなるにつれて顎や歯が頑丈になっていく傾向が見て取れます。これはより硬い食物を食べるようになったためだと考えられてきましたが、その具体的な食物についてはこれまで議論が続いてきました。
ゴリラが硬い種子を日常的に食べることができるという事実により初期人類の食生活についても、従来の説を見直す必要があるかもしれません。ゴリラの強靭な顎と歯は硬い種子を割るためだけでなく、大量の葉や果実を効率的に咀嚼するためにも進化してきたと考えられます。初期人類もゴリラと同様に、硬い食物と柔らかい食物の両方を食べることで厳しい環境の中で生き残ってきたのかもしれません。
引用元
タイトル:Unexpected hard-object feeding in Western lowland gorillas
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ajpa.23911
著者:Adam van Casteren, Edward Wright, Kornelius Kupczik, Martha M. Robbins