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古代の貝形虫の化石から、節足動物進化史の謎に迫る

イギリスのウェールズ地方で発見された約4億3000万年前(シルル紀)の化石から、絶滅した貝形虫の新種が発見されました。この化石は古代の海洋生物の姿を現代に伝える貴重な「ヒアフォードシャー州化石群」のひとつです。特筆すべきはこの化石が貝殻だけでなく、脚などの軟体部も非常に良い状態で保存されていたことです。この発見は貝形虫類の進化史、そして節足動物全体の進化過程の理解も大きく前進させる可能性を秘めています。

貝形虫はミジンコなどの仲間である甲殻類の一種で、大きさは数ミリから数センチメートルと非常に小さく、2枚の貝殻に覆われています。5億年以上前に地球上に現れ、現在も淡水から海水まであらゆる水環境に生息しています。その種類は豊富で化石としても大量に見つかることから、過去の地球環境や生物の進化を探る上で重要な手がかりとなっています。

今回発見された新種は「デリマ・パパルメ」と名付けられました。この化石は貝殻の特徴から、オルドビス紀からペルム紀(約4億8500万年前~約2億5200万年前)にかけて繁栄した「ビノディコピナ」というグループに属すると考えられています。ビノディコピナはこれまで化石の貝殻のみで知られていて、その軟体部の構造や生態は長年の謎とされてきました。

デリマ・パパルメの化石は3次元的に復元され、詳細な観察が行われました。その結果、7対の脚や尾部に付属肢を持つことが明らかになりました。これは現生の貝形虫のグループである「ポドコパ」の特徴とよく一致しています。従来の分類では、ビノディコピナはポドコパとは別のグループである「パレオコパ」に属するとされてきました。しかし、今回の発見はビノディコピナが実際にはポドコパに属することを示唆していて、貝形虫の進化史を大きく塗り替える可能性があります。

これまで、化石記録における貝形虫の分類は主に貝殻の形や構造に基づいて行われてきました。しかし、今回の発見は軟体部の構造が貝形虫の進化史を解き明かす上で極めて重要であることを改めて示しました。

引用元

タイトル:Preserved appendages in a Silurian binodicope: implications for the evolutionary history of ostracod crustaceans
URL:https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2024.0097
著者:David J. SiveterDerek E. G. BriggsDerek J. Siveter and Mark D. Sutton

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