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2021年『第31回イグノーベル賞』の解説

今年もあの問題の賞がやってきた!

どうもこんばんは!、サイエンス妖精の彩恵りりだよ。普段はTwitterで最新の科学研究を解説しているんだけど、今回は特別編!つい先日、2021年9月9日 (日本時間9月10日7時から) に発表のあった『第31回イグノーベル賞』について解説するよ!

イグノーベル賞公式サイト
第31回イグノーベル賞公式放送 (YouTube)

(この記事中全ての画像は、第31回イグノーベル賞公式放送の画面キャプチャを使用しています。2021年9月23日追記: 参照時のURLはこちらですが、何らかの理由で公開が停止されているため、上記リンクに変更となっております。)

そもそもイグノーベル賞って何?

さて本題に入る前に、そもそもイグノーベル賞を知らない人は多いんじゃないかな?もし知っている人がいたらこの部分は読み飛ばしてもらって構わないからね!

世界的に権威のある、自然科学に関する賞と言えばノーベル賞だけど、イグノーベル賞はそのパロディとして、本家ノーベル賞の1ヶ月くらい前に発表されるものだよ。受賞対象は「人々を笑わせ考えさせた業績」に対するもの10賞。だからパッと見の印象は面白いとか笑えるとか、正直意味の分かんない研究も並んでいたりするよ。

でも。一方でこのイグノーベル賞、考えさせた業績と言う点が肝心だよ。単に面白いだけじゃなく、この研究手法がとても斬新で使えるとか、今まで高コストで研究しづらい手法を改善したとか、予測していなかったインパクトのあるスゴい事が分かるとか、そういう研究が受賞するんだよ。だから、これは私個人の考えなんだけど、研究の面白さと凄さを両立していなければならないから、本家ノーベル賞より受賞するのが難しいと思っているんだよ。

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普段イグノーベル賞の受賞はハーバード大学のサンダーズ・シアターで行われているんだけど、昨今の状況から、昨年からはオンライン授賞式となっているよ。その影響で、受賞者に贈られる賞品にも変化があるんだよ。今回の商品は「ノーベル賞受賞者のサインが入ったイグノーベル賞のロゴ入りA4用紙」「賞金として10兆ジンバブエドル札」「人間の歯がついた "歯" 車型のトロフィー (盾)」だったよ。ただし国際郵便で送るのも大変だから、これらは全て受賞者のメールにPDFで送信され、自分で印刷しないといけないよ!特にトロフィーについて自分で切り貼りして組み立てしないといけないセルフサービスだよ!賞金の10兆ジンバブエドル札はもちろんニセモノだし、そもそもお札として失効しているからどちらにしても価値がゼロだよ。

賞品1

賞品2

賞品3

ちなみに "歯" 車トロフィーに関しては、今年のテーマと挟まれるミニオペラがエンジニアリングである事と関連しているよ (と言っても今年の受賞にエンジニアリングは関係ないけど、受賞と関係のないテーマやミニオペラは毎年の事だよ。) 。それになんで歯車の歯が人間の歯かと言えば、日本語でシャレが成り立っているのは偶然だけど、英語でも歯車の歯と人間の歯は同じ "tooth" と言うからだよ。他にも、イグノーベル賞には小ネタが目白押し。例えば「24/7レクチャー」という間に挟まるレクチャーは、24秒以外に7単語で自分の業績を説明しないといけないよ。この24/7というのは、24時間と7日という事で、年中無休で営業している事を皮肉った単語だよ。他にも、受賞者たちはユーモアを込めて自分の業績を説明しないといけないから、ネコの研究をした人が猫耳をつけたり、ガムの研究をした人がずっとガムを噛んでいたり、ヒゲを研究した人が立派な付けヒゲだったり…こんな感じで楽しいショーなので、できる事なら公式放送を見てみる事をお勧めするんだよ!

第31回イグノーベル賞の概況

日本では、日本人がイグノーベル賞を15年連続で受賞した事が話題になったね!日本とイギリスはイグノーベル賞の常連国で、イグノーベル賞創設者のマーク・エイブラハムズによれば、「多くの国が奇人・変人を蔑視するなかで、日本とイギリスは誇りにする風潮がある。」と評しているらしいんだよ。

ところで今年は珍しい事に、「運送賞」にてナミビアが初めてイグノーベル賞を受賞したんだよ!また、今回は「物理学賞」と「動力学賞」が内容の対比になっているという前例のない状態になっていたんだよ。更に、イグノーベル賞は毎回の傾向として下ネタや政治的な皮肉を入れるのがお約束であるんだけど、今回は珍しい事にニュースバリューからの受賞はなく、全て論文を元に受賞者を選定しているんだよ!これはとても珍しい事だよ!

では次からは、具体的な10賞の解説だよ!

🐈第31回イグノーベル生物学賞

受賞国: スウェーデン
受賞者: Susanne Schötz
授賞理由: プァーイング (喉をゴロゴロ鳴らす) 、チャーピング (甲高く鳴く) 、チャタリング (カカカと歯を打ち鳴らす) 、トリリング (震え声) 、ツイードリング (キーキー言う) 、ミャミャイング (ミャーミャーつぶやく) 、ニャーリング (ニャーと鳴く) 、モーニング (うめき声) 、スクィーキング (キュッキュッ鳴く) 、ヒスイング (シューっと鳴く) 、ヨーリング (悲しい声) 、ハウリング (わめく) 、グローウィング (ウーッとうなる) 、そしてその他、ネコ-ヒト間コミュニケーションのバリエーションを分析した事について。
受賞論文: 
■Schötz, Susanne & Eklund, Robert. "A comparative acoustic analysis of purring in four cats". Proceedings from Fonetik 2011, Quarterly Progress and Status Report TMH-QPSR, 2011; 51.
■Susanne Schötz. "A phonetic pilot study of vocalisations in three cats". Proceedings from FONETIK 2012, 2012; 4, 45-48.
■Susanne Schötz. "A phonetic pilot study of chirp, chatter, tweet and tweedle in three domestic cats". [Host publication title missing], 2013; 4, 65-68.
■Susanne Schötz & Joost van de Weijer. "A Study of Human Perception of Intonation in Domestic Cat Meows". Social and Linguistic Speech Prosody : Proceedings of the 7th international conference on Speech Prosody, 2014.
■Susanne Schötz, Robert Eklund & Joost van de Weijer. "Melody in Human–Cat Communication (Meowsic): Origins, Past, Present and Future". Proceedings of FONETIK 2016, 2016; 6, 19-24.

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これはいわゆる "ネコ語" の研究だね~。受賞者は1人だけど、受賞した論文は5本もあるよ!この研究では、ペットとして大人気なネコについて、その鳴き声を何百も収集して、鳴き方や周波数などで分類、音響学的なアプローチで研究をしたものだよ!

例えば、4匹の飼いネコの鳴き声を、持続時間や音量、基本周波数などで比較すると、声に "個人差" がある事が分かるよ。

3匹の飼いネコが、窓越しに鳥と言う獲物を観ている際の257回分の鳴き声を分類したものでは、4種類の鳴き声に分類されたけど、この中での基本周波数と持続時間は、個人差だけでなく、鳴き声のタイプ間、あるいは同じタイプの中での鳴き声の中でも違いがあって、これを暫定的に分類する方法を提案しているよ。

同じ "ニャー" という鳴き声でも、エサを食べている時のニャーと、獣医を待っている時のニャーでは違いがある事を示した論文もあるよ。この場合、基本周波数が、エサを食べている時には上昇、獣医を待っている時には下降を示していた事、これが偶然を超えた有意差がある事が分かったよ。更に、この鳴き声の違いを、ネコを飼ったことがある人と飼ったことが無い人に聞かせるテストを行うと、ネコを飼ったことのある人はない人と比べてより聞き分けられる事が分かったよ!これらを総合すると、ネコは人間がいる場において、状況に応じてニャーを使い分けている可能性があって、人間もそれを受けてニャーを識別している可能性を示すものだよ!

一方で、3匹の飼いネコの538回分の鳴き声を、人間と同じような音声学的・言語学的なアプローチで研究する試みでは、最も多かったのはミャミャイングとニャーリングの組み合わせによるものだったという事は分かったけど、基本周波数で分類されるイントネーションのばらつきが大きくて、残念ながら、少なくとも人間と同じ方法では "ネコ語" を理解するのは難しい、とも分かったよ。

🦠第31回イグノーベル生態学賞

受賞国: スペイン、イラン
受賞者: Leila Satari、Alba Guillén、Àngela Vidal-Verdú、Manuel Porcar
授賞理由: 世界各地の道路に捨てられたチューインガムに生息する様々な種類の細菌を、遺伝子解析を用いて同定した事に対して。
受賞論文: Leila Satari, Alba Guillén, Àngela Vidal-Verdú & Manuel Porcar. "The wasted chewing gum bacteriome". Scientific Reports, 2020; 10, 16846. DOI: 10.1038/s41598-020-73913-4.

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中石器時代から新石器時代の頃に、木のタールを由来とするガムを歯磨き粉代わりに使っていたとされる人類は、19世紀ごろに現在イメージするのと似ているチューインガムを開発したと言われているよ。さて、ガムを噛んだら、ちゃんと紙に包んでゴミ箱へ!これは基本であって、間違っても道路とかに吐き捨てちゃダメだよ!とはいっても、現実には道路に吐き捨てられたガムはたくさんあるよね。このガムは、口の中で噛んだ事で咥内細菌が付着しているはずだけど、どういう風になっているのかという研究は、まぁされてなかったよ。

今回受賞した論文では、5つの異なる国で野外に廃棄されたガムを採集して、細菌の種類を16SrRNAシーケンスなどの遺伝子解析の手法を用いて分析したよ。すると、廃棄されたガムには、スフィンゴモナス属 (𝑆𝑝ℎ𝑖𝑛𝑔𝑜𝑚𝑜𝑛𝑎𝑠 spp.) 、コクリア属 (𝐾𝑜𝑐𝑢𝑟𝑖𝑎 spp.) 、デイノコッカス属 (𝐷𝑒𝑖𝑛𝑜𝑐𝑜𝑐𝑐𝑢𝑠 spp.) 、ブラストコッカス属 (𝐵𝑙𝑎𝑠𝑡𝑜𝑐𝑜𝑐𝑐𝑢𝑠 spp.) など、空気中を漂っている細菌が見つかったんだよ!あるサンプルでは、地面に付着しているガムを3層にスライスして、太陽光に直接照らされる部分、地面のアスファルトに接する部分、その中間の外部環境から封じられている部分に分けて分析したんだけど、予想外な事に、特に場所場所で細菌の種類に変化がなかった事が分かったんだよ。ガムがある程度水や酸素を遮断する物質である事を考えると、外側と内部では細菌の種類の変化があってもいいのにね。とはいっても、これはもっとサンプルが必要だと研究者は言っているよ。

これとは別に、廃棄されたガムを想定して、12週間屋外の舗装道路に暴露させたガムのサンプルを13個用意し、どのように細菌の種類が変化するのかを調べたよ。分析の結果、最初はやっぱり口の中の歯茎に存在する連鎖球菌属 (𝑆𝑡𝑟𝑒𝑝𝑡𝑜𝑐𝑜𝑐𝑐𝑢𝑠 spp.) やコリネバクテリウム属 (𝐶𝑜𝑟𝑦𝑛𝑒𝑏𝑎𝑐𝑡𝑒𝑟𝑖𝑢𝑚 spp.) といった細菌を反映していたんだけど、数週間でその種類は変化して、9週間後にはそれらは最低量に達して、代わりにアシネトバクター属 (𝐴𝑐𝑖𝑛𝑒𝑡𝑜𝑏𝑎𝑐𝑡𝑒𝑟 spp.) 、シュードモナス属 (𝑃𝑠𝑒𝑢𝑑𝑜𝑚𝑜𝑛𝑎𝑠 spp.) 、スフィンゴモナス属など、どちらかと言えば土壌や空気中などの環境中に存在する細菌に置き換わる事が分かったよ!

ガムの物質の分解度を調べると、アスパルテーム、マンニトール、グリセロールといった甘味料は比較的分解されているけど、一方でガムの基本的な成分であるガムベースは、基本的な組成がゴムであって、これは硫黄原子を入れる加硫という処理によって分子が強化されているから、細菌による生分解にある程度耐性があるよ。それでも、成分を分析するとその硫黄分を代謝したものである硫酸塩が見つかったので、ガムの中ではゴムの脱硫を担う細菌と、それによるゴム分子自体の生分解に寄与する細菌が共存している事が分かったよ。

路上に廃棄されたガムの洗浄は、イギリスだけで年間7000万ユーロ以上のコストがかかっていると言われているし、歴史的建造物や芸術作品のようなものにガムをつけられると、その成分が染み込む事による長期的な悪影響が懸念されるよ。更に、ガムが長期間残る事は、吐き出した人のDNAや、咥内細菌の種類や割合を調べる事によって、吐き出した人を特定する犯罪学や考古学上の利点はあるけど、それは同時に、長期的に危険な感染症や日和見病の病原体の温床になるという問題も示しているよ。今回の研究は、環境中で分解しやすいガムの開発とか、法医学的な応用とか、伝染病の貿易のような、廃棄されたガムに関わる幅広い学問に影響を与えるものだよ!

🎬第31回イグノーベル化学賞

受賞国: ドイツ、イギリス、ニュージーランド、ギリシャ、キプロス、オーストリア
受賞者: Jörg Wicker、Nicolas Krauter、Bettina Derstroff、Christof Stönner、Efstratios Bourtsoukidis、Achim Edtbauer、Jochen Wulf、Thomas Klüpfel、Stefan Kramer、Jonathan Williams
授賞理由: 映画館内の空気を化学的に分析し、観客が発する臭いが、鑑賞中の映画に含まれる暴力・セックス・反社会的行動・薬物使用・悪口などの度合いを反映しているかどうかを調べた事に対して。
受賞論文:
■C. Stönner, A. Edtbauer, B. Derstroff, E. Bourtsoukidis, T. Klüpfel, J. Wicker & J. Williams. "Proof of concept study: Testing human volatile organic compounds as tools for age classification of films". PLoS ONE, 13 (10) e0203044. DOI: 10.1371/journal.pone.0203044.
■Jörg Wicker, Nicolas Krauter, Bettina Derstorff, Christof Stönner, Efstratios Bourtsoukidis, Thomas Klüpfel, Jonathan Williams & Stefan Kramer. "Cinema Data Mining: The Smell of Fear". Proceedings of the 21th ACM SIGKDD International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining, 2015; 1295-1304. DOI: 10.1145/2783258.2783404.

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息とか皮膚とか、人間からは色んな臭いがするけど、これを化学的に言うならば、VOC (揮発性有機化合物) を放出して、その分子を鼻が受け止める事で臭いとして感じる、と言うものだよ。

さて、人間から発せられるVOCは、その時の心理状態など、様々な影響を受けることが知られていて、過去には呼気に含まれる二酸化炭素の濃度が映画のシーンに応じて変化する事が調べられているよ。

今回の研究では、ドイツのマインツにある映画館『CineStar in Mainz』において、空気を連続して採集して質量分析にかけて、どんなVOCが含まれているのかを調べたよ。映画の分類は、ドイツのFSK (Freiwillige Selbstkontrolle der Filmwirtschaft/映画ビジネス自主規制協会) という協会が設けたレーティングシステムのFSK0・FSK6・FSK12・FSK16で分けたよ。ちなみに、観客が観た映画は以下の通りだよ。

●FSK0: 『スモール・アドベンチャー/パパママ救出大作戦 (Help, I've shrunk my teacher)』、『I'm Off Then』

●FSK6: 『Buddy』、『ウォーキングwithダイナソー (Walking with Dinosaurs 3D)』、『LIFE! (The Secret Life of Walter Mitty)』

●FSK12: 『ザ・スタービング・ゲームズ (The Starving Games)』、『ハンガー・ゲーム2 (The Hunger Games: Catching Fire)』、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (Star Wars: The Force Awakens)』

●FSK16: 『悪の法則 (The Counselor)』、『マチェーテ・キルズ (Machete Kills)』、『パラノーマル・アクティビティ5 (Paranormal Activity: The Ghost Dimension)』

測定と分析の結果、ほとんどの映画では、レーティングの違いとVOCの違いを区別できなかったよ。これは、鑑賞中の映画に含まれる暴力・セックス・反社会的行動・薬物使用・悪口など、因子が複雑すぎる事、生物学的反応に個体差がある事、そのレーティングに含まれる映画自体が少ない事が要因と考えられるよ。

ただし、イソプレンというVOCだけは、レーティングのFSK0・FSK6・FSK12にある程度相関している事、レーティングが高いほど放出量が多い事だけは分かったよ。特にそれはレーティングがFSK0の映画において最も相関が強かったよ。イソプレンは子供より大人の方が放出量が多い傾向にあり、体内で生成されたイソプレンは呼気で体外に排出される事は知られているよ。これは、イソプレンが体内でコレステロールを合成した際に発生する副産物で、それが筋肉から血管へと移動し、血液経由で肺から呼気へと移動するからだよ。この事を考えると、FSK0の映画では、文字通り息を吞むような、呼吸を変えるショッキングなシーンが少なく、イソプレンが息から放出される事が少ない結果、相対的に他のレーティングの映画よりもイソプレンの放出量が少なく、区別が可能だった、と考える事ができるよ。

また、イソプレンの濃度は、全体的に映画開始からクライマックスまで直線的に上昇していって、スタッフロールが流れた頃には急激な上昇と濃度のピークを打ち、その後急激に減少するという時系列が観測されたよ。これは、筋肉に溜まっていたイソプレンが徐々に息と共に放出される事と、映画が終わったので移動するという行為で一気に放出される事を反映していると推定されるよ!つまりイソプレンの相対的な濃度は、映画の進み具合をある程度観る事が可能かもしれないよ!

🧈第31回イグノーベル経済学賞

受賞国: フランス、スイス、オーストラリア、オーストリア、チェコ、イギリス
受賞者: Pavlo Blavatskyy
授賞理由: 政治家の肥満度合いは、その国の政治的な腐敗度合いを示す良い指標であるかもしれない事を発見した事に対して。
受賞論文: Pavlo Blavatskyy, "Obesity of politicians and corruption in post-Soviet countries". Economic of Transition and Institutional Change, 2021; 29 (2) 343-356. DOI: 10.1111/ecot.12259.

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独裁者はおデブちゃんだ!というイメージは大きいと思うけど、これは実際に正しいのかな?というのをまじめに調べた研究が今回の受賞論文だよ!

この論文では、ソビエト連邦が崩壊後、分裂して独立するなどして国が分かれた15ヵ国、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、エストニア、ジョージア、カザフスタン、キルギス、ラトビア、リトアニア、モルドバ、ロシア、タジキスタン、トルクメニスタン、ウクライナ、ウズベキスタンで2017年に閣僚を経験した人の正面顔の画像299枚を分析し、アルゴリズムで肥満度を推定したよ。

その結果、世界的に使われている政治的腐敗度を示す指数「トランスペアレンシー・インターナショナル腐敗認識指数」、「世界銀行の政府ガバナンス評価」、「公共誠実指標」と良く相関している、つまり政治的に腐敗していると評価されている国ほど、閣僚は肥満気味であるという傾向がある事が分かったんだよ!

💑第31回イグノーベル医学賞

受賞国: ドイツ、トルコ、イギリス
受賞者: Olcay Cem Bulut、Dare Oladokun、Burkard Lippert、Ralph Hohenberger
授賞理由: 性的オーガズムが、鼻づまりを改善する薬と同じくらいに鼻呼吸の改善に効果的である可能性を示した事に対して。
受賞論文: Olcay Cem Bulut, Dare Oladokun, Burkard M. Lippert & Ralph Hohenberger. "Can Sex Improve Nasal Function?—An Exploration of the Link Between Sex and Nasal Function". Ear, Nose & Throat Journal, 2021; 0145561320981441. DOI: 10.1177/0145561320981441.

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えーっと、これは内容的にめっちゃ説明しにくいし話しにくいね…オーガズムがどういう意味なのかは辞書で調べてね!

なんでそもそもこんな研究をしたかって?身体の運動やホルモンバランスの変化は、交感神経・副交感神経の活動や粘液分泌、血管拡張効果により、短期的・長期的に鼻呼吸の質を改善する事が知られていて、これは例えば競泳、ランナー、ハンドボールの選手など、スポーツをする人たちで確認されているよ。ただ、この手の研究はまだされた事が無いってわけ。

今回受賞した論文では、2020年に男女のカップルそれぞれ18組36名で測定したよ。鼻呼吸について普段の値をビジュアルアナログスケールで測定し、これを基準として、オーガズムの直後 (1分以内) 、30分後、1時間後、3時間後の鼻呼吸の改善度を測定したよ。そしてこれとは別に、炎症を抑えて鼻詰まりを改善する薬である0.1%キシロメタゾリンを片側に1回塗布し、翌日に同じ測定を行ったよ。また、事前に被験者の鼻の機能について、「NOSE (Nasal Obstruction Symptom Evaluation)」によるデータを得たよ。

その結果、オーガズムによる鼻呼吸の改善は、1時間後まではキシロメタゾリンの塗布と同じくらいの改善効果が観られたよ。また、3時間後には元に戻っていたけど、持続時間はキシロメタゾリンより良かったんだよ。もしもこれが "1人で行う" 事でも同じ改善効果があるなら、状況次第では鼻づまりを改善する薬の代わりになる可能性はあるんだよ。

とはいっても、今回は被験者は医療従事者とそのパートナーで、実際に利用できたデータは、機器での測定などの条件の問題から8組16人分に絞られたよ。測定は自ら行うから、この点についてはバイアスを排除しきれないし、他の諸条件も合わせられていないから、まだまだ研究としては改善の余地があるね。とはいってもこれはできるかなぁ…。

🧔第31回イグノーベル平和賞

受賞国: アメリカ
受賞者: Ethan Beseris、Steven Naleway、David Carrier
授賞理由: 人は顔へのパンチから身を守るためにヒゲを進化させたのではないかと言う仮説を検証した事に対して。
受賞論文: Ethan A. Beseris, Steven E. Naleway & David R. Carrier. "Impact Protection Potential of Mammalian Hair: Testing the Pugilism Hypothesis for the Evolution of Human Facial Hair". Integrative Organismal Biology, 2020; 2 (1) obaa005. DOI: 10.1093/iob/obaa005.

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生物学的にヒトの性差を見ると、いくつかある違いの1つとして、顔にある毛、つまりヒゲがあるよね。このヒゲという特徴は、霊長類の中ではヒトの特徴ともいえる違いだけど、いったい何のためにあるのかな?

古来よりヒゲは、男らしさとか、社会的に偉いという指標とみなされてきたから、ヒトという生物集団の中でのオス同士の争いでの優位性を表す機能、とみなされてきたよ。ただ、本当にそれだけのためにヒゲを生やしたのか、と言う点には異論もあったよ。ヒゲが長く伸びる毛である事から、例えばライオンのたてがみのように、喉や顎と言った急所になる部分を守る機能があるんじゃないか、と言う考えも一部にあったよ。下顎の骨は、顔面の中でも最も骨折の多い部位、という医学的な統計もあるし、ボクシングでアッパーカットは一発KOに繋がりやすいよね。

今回受賞した論文では、そんな疑問を解決するために研究を行ったよ。と言っても、実際に顎ヒゲを生やした人を殴る訳にはいかないから、顎の模型を作って重りを落とす実験を行ったよ。骨の部分はエポキシ樹脂で、皮膚とヒゲはヒツジのを使って、毛があるもの、毛を抜き取ったもの、毛を剃ったものでそれぞれ実験したよ。

それぞれ20個のサンプルで実験した結果、毛があるものでは、毛が無いものと比較して、衝撃力の最大値が16%減少し、吸収したエネルギーが37%も大きい事が分かったよ。ヒゲがある事が下顎への衝撃を和らげる、と言う仮説を支持するものだね!

🚶第31回イグノーベル物理学賞

授賞国: オランダ、イタリア、台湾、アメリカ)
受賞者: Alessandro Corbetta、Jasper Meeusen、Chung-min Lee、Roberto Benzi、Federico Toschi
授賞理由: 歩行者が常に他の歩行者とぶつからず歩ける理由を実験で解明した事に対して。
受賞論文: Alessandro Corbetta, Jasper A. Meeusen, Chung-min Lee, Roberto Benzi & Federico Toschi. "Physics-based modeling and data representation of pairwise interactions among pedestrians". Physical Review E, 2018; 98, 062310. DOI: 10.1103/PhysRevE.98.062310.

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人が歩いていて他の人も歩いている場合、普通はお互いが位置を調整する事でぶつからないよう回避するよね。ある程度人混みが激しくて、連続してよけなければならない場面でも、歩行者はぶつからないよう調整できるよ。でも、その理由についてきちんと研究したものは、実はそんなにないんだよ。

今回受賞した論文では、まずオランダのアイントホーフェン駅で6ヶ月間人の動きを撮影し、これを元に衝突回避を行う相互作用を扱える定量的なモデルを作成したよ。これは簡単に言えばだけど、ある程度見通しがいい時に予め避けておく長距離での回避と、直前に近づいてきた時に身をかわす短距離での回避を、それぞれ粒子間に働く力として数値化し、モデル化したんだよ。

この研究が優れているのは、モデル化で変数を自在に変更できるようにしたことだよ。これによって、例えば壁同士の距離とか、歩いている人の歩行速度とか、色んな条件を試してみる事ができたし、現実的な値を入れると、現実に即した結果が返ってくるだけでなく、稀に発生する衝突も再現する事もできたんだよ!

🤳第31回イグノーベル動力学賞

受賞国: 日本、スイス、イタリア
受賞者: Hisashi Murakami、Claudio Feliciani、Yuta Nishiyama、Katsuhiro Nishinari
授賞理由: 歩行者が時には他の歩行者とぶつかってしまう理由を実験で解明した事に対して。
受賞論文: Hisashi Murakami, Claudio Feliciani, Yuta Nishiyama & Katsuhiro Nishinari. "Mutual anticipation can contribute to self-organization in human crowds". Science Advances, 2021; 7 (12) eabe7758. DOI: 10.1126/sciadv.abe7758.

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ところが残念ながら、最近社会問題となっているものに「歩きスマホ」があるね。スマホに脳の処理能力が取られてしまい、周辺への注意がおろそかになってしまうよ。これによって普通ならぶつからないところで人にぶつかってしまうとか、もっと大きな事故を起こす危険もあるよ。

今回受賞した論文では、そういう注意散漫な人がいる状態だと集団はどう動くのかを実験したものだよ。さっきの解説でもあった通り、人の動きと言うのはモデル化が可能だから、実験結果を数値として捉える事でモデルを構築したり、集団がどう動いたのかを検証する事が可能なんだよ。実際、人の集団というのは、自分自身だけでなく相手もこう動くだろうというある程度の前提を持って移動する自己組織化が存在する事が研究により明らかとなっているよ。

今回の実験では、歩く人の速度を様々に変えた上で、歩きスマホをさせる人は簡単な1桁の足し算の問題をやらせつつ、集団の動きがどう変化するのかを調べたよ。

その結果、歩きスマホをする人は普段より歩くのが遅くなる上に、周りの動きに注意が払えなくなる事から、避けるのが遅れてしまって、流れを乱してしまう事が明らかになったよ。これは当たり前と思えるかもしれないけど、実はこれ以外にも観察された効果があったんだよ。例えば、避ける相手側は注意散漫になってなくても、歩きスマホをしている人がどう動くのか予想がつかないという事から、避けるのが遅れてしまう事が明らかになっているよ。また、歩きスマホの人は歩くのが遅いというけど、それによって人の流れ、簡単に言うと大雑把に直線的に並んで移動する事を阻害する事が分かったんだよ。これは、歩きスマホをせず、単にゆっくり歩く事を指示しただけの人の場合には観察されないものであったことが明らかになったんだよ!

☠第31回イグノーベル昆虫学賞

受賞国: アメリカ
受賞者: John Mulrennan Jr.、Roger Grothaus、Charles Hammond、Jay Lamdin
授賞理由: 彼らの研究『潜水艦における新しいゴキブリ対策』に対して。
受賞論文: J. A. Mulrennan, Jr., R. H. Grothaus, C. L. Hammond & J. M. Lamdin. "A New Method of Cockroach Control on Submarines". Journal of Economic Entomology, 1971; 64 (5) 1196-1198. DOI: 10.1093/jee/64.5.1196.

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初めに注釈だけど、これ新しいとは言いつつ、1971年の論文だから注意してね。

ゴキブリが色んな環境に適応する事は良く知られているし、それがとても長期にわたって閉鎖される空間である潜水艦の中だとどれほど問題かは、言わなくても想像つくよね。今回受賞した論文では、ゴキブリの1種である「チャバネゴキブリ (𝐵𝑙𝑎𝑡𝑡𝑒𝑙𝑙𝑎 𝑔𝑒𝑟𝑚𝑎𝑛𝑖𝑐𝑎)」を潜水艦内から防除するための方法を書いたものだよ。

実験したのはアメリカ海軍の8隻の潜水艦で、殺虫剤としてジクロルボス6.5%のエアロゾルを1立方センチメートルあたり0.83gの割合 (12oz/10000ft³) で8隻全てに、3隻には追加でプロポクサー2%のベイト剤 (エサに混ぜて食べさせるタイプの殺虫剤) を追加で散布したよ。このプロポクサーは、ジクロルボスでは効果のない、孵化したばかりのゴキブリに対して行われるものだよ。

その結果、ジクロルボスの処理だけでも97%以上の防除効果を得られたよ。この研究により、従来の燻浄やマラチオンを使用する方法よりも、コストが低いだけでなく、効果も高い事が分かったんだよ!燻浄やマラチオンの散布はそこまで効果がないだけでなく、特に潜水艦は閉鎖空間だから、どこかに殺虫剤が残っていると殺虫剤入りの空気が循環して悪影響を及ぼしかねないね。ジクロルボスは即効性がある割に分解もしやすいから、その点でも後から乗り込む乗組員の安全性は高まるというわけ。

🦏第31回イグノーベル運送賞

受賞国: ナミビア、南アフリカ共和国、タンザニア、ジンバブエ、ブラジル、イギリス、アメリカ
受賞者: Robin Radcliffe、Mark Jago、Peter Morkel、Estelle Morkel、Pierre du Preez、Piet Beytell、Birgit Kotting、Bakker Manuel、Jan Hendrik du Preez、Michele Miller、Julia Felippe、Stephen Parry、Robin Gleed
授賞理由: サイを空輸するには、逆さづりにした方が安全かどうかを実験で検証した事に対して。
受賞論文: Robin W. Radcliffe, Mark Jago, Peter vdB Morkel, Estelle Morkel, Pierre du Preez, Piet Beytell, Birgit Kotting, Bakker Manuel, Jan Hendrik du Preez, Michele A. Miller, Julia Felippe, Stephen A. Parry & Robin D. Gleed. "The Pulmonary and Metabolic Effects of Suspension by the Feet Compared with Lateral Recumbency in Immobilized Black Rhinoceroses (𝐷𝑖𝑐𝑒𝑟𝑜𝑠 𝑏𝑖𝑐𝑜𝑟𝑛𝑖𝑠) Captured by Aerial Darting". Journal of Wildlife Diseases, 2021; 57 (2) 357-367. DOI: 10.7589/2019-08-202.

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絶滅の危機にある動物の保護は、生物多様性を維持する上で大切なものだけど、保護活動には苦労を伴うよ。特に身体が大きい動物の場合、移動させるのはとっても大変。動物への負荷を最小限にする努力は色々とされているよ。

今回受賞した論文は、麻酔で眠らせた「クロサイ (𝐷𝑖𝑐𝑒𝑟𝑜𝑠 𝑏𝑖𝑐𝑜𝑟𝑛𝑖𝑠)」を移動させるのにどの姿勢がいいのかを調べた研究だよ。体重が1トン前後もあるクロサイを移動させる方法は、今までは足に紐を括り付けて逆さづりにし、ヘリコプターで空輸する、と言う方法だったよ。ただ、もちろんこれはクロサイにとって普通の姿勢じゃないから、側臥位、つまり横向きに寝かせる姿勢よりも、呼吸器系のガス交換の効率が悪くなるという予測があったよ。また、似たような種であるシロサイ (𝐶𝑒𝑟𝑎𝑡𝑜𝑡ℎ𝑒𝑟𝑖𝑢𝑚 𝑠𝑖𝑚𝑢𝑚) をエトルフィンのみで麻酔した場合、代謝が減って (代謝亢進) VCO₂ (二酸化炭素発生率) が高くなる事は知られているよ。だからこそ、これまであまり検証されずに行われてきた、クロサイを麻酔で眠らせた後に逆さづりにして空輸する方法が、クロサイへの悪影響が本当に少ないのかどうかを調べる必要があったよ。

論文では、平均8歳、平均体重1137kgの野生のクロサイ12頭 (オス9頭・メス3頭) を、エトルフィンとアザペロンという2種類の麻酔薬を含んだダーツで眠らせた後、6頭ずつランダムな順番に、横向きに寝かせる姿勢と、クレーンで足から吊り下げる姿勢をさせて、その姿勢になってから10分後に血中のPaO₂ (動脈酸素分圧) とPaCO₂ (動脈二酸化炭素分圧) を調べたよ。

その結果、足で吊り下げたクロサイはPaO₂は42mmHgでPaCO₂は52mmHgだったよ。これは側臥位と比べて、PaO₂は4mmHg高く、PaCO₂は3mmHg低かったよ。一回換気量 (1回の呼吸で呼吸器に出入りするガスの量) と毎分換気量に差はなかったよ。平均VCO2は2mL/kg/分で、生物学的に予測される値と同等かわずかに大きく、2種類の麻酔による代謝の低下はシロサイほどは減ってなかったよ。

総合すると、クロサイを空輸するには、横に寝かせるよりも、今まで行われてきた足で逆さづりにした方が、呼吸器への影響が少ないという事が分かったよ。更に、逆さづりは横寝かせよりもかかる時間もコストも少ない、という利点もある点でも、クロサイの保護においてこれからも使われる方法だという事が分かるんだよ!

終わりに

イグノーベル賞は、その内容的に研究のユニークさがよく注目されるけど、単に面白いとか笑えるとか、それだけでは受賞できる賞じゃないよ。今回の研究も内容を見ればわかる通り、とてもまじめな研究に対して贈られていて、その結果や成果を考えてもやっぱりまじめに発展する要素を秘めた研究なんだよ!なんでこんな研究したの?って思えるようなものでも、具体的な応用とかインパクトのある内容のもあったりするものもあるから、科学研究はすぐに役に立つとかそういう視点ばかりではなく、こういう一見すると無駄に思える内容にもちゃんとした研究の理由がある、という点が少しでも分かってくれると、私は嬉しいかな。

ところで、このイグノーベル賞のよりリアルタイムな解説放送があるから、最後に紹介しておくね!

1個目は、イグノーベル賞発表のまさに同時刻に同時視聴と解説を行った、科学コミュニケーション系Vtuberの「北白川かかぽ」さんと、生命科学Vtuberの「高遠頼」さんのコラボ放送だよ!

北白川かかぽさん (科学コミュニケーション系Vtuber)
Twitter: https://twitter.com/kakapo_research
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCEoAD_2jSLoYQd2MJZxWuxQ

高遠頼さん (生命科学Vtuber)
Twitter: https://twitter.com/takatoh_life
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC40s5z5yrd02Ngy8nQZXE5w

そしてそして!発表は日本時間早朝だけど、夜に振り返り配信を行った時のがこちら!先ほどの北白川かかぽさんの放送に、私がちゃっかり出演しちゃいました!あの時には色々翻訳とか追い付いてなかったから、この解説と矛盾する点があったらそれはごめんなさい!

北白川かかぽさん (科学コミュニケーション系Vtuber)
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彩恵りり (サイエンス妖精/科学系ニュース解説者)
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