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4 鍋落とし 1

2021年10月31日 最終更新日時 :2022年1月25日

TX816

サイエンスエッセイ 4

この話題の動画は

鍋を吊るしてあります。鍋の下側にも紐があります。紐A、鍋、紐Bの順に縦に並んでいるとします。

 紐Bを引くと、紐A(上側)と紐B(下側)のどちらが切れるでしょう、という実験。答えは紐の引き方によって変わります。強く一気に引くと下側の紐Bが切れます。じわじわ引くと上側の紐Aが切れ、鍋が落ちます。

 これは「慣性」の実験です。慣性とは「外部から力が加わらないとき、動いているものは動き続け、止まっている物は止まり続けようとする」というもの。わかりにくいですね。動いている物を止めようとするとブレーキの力が必要です。なぜなら「動いているものは動き続けようとするから」。逆に止まっている物を動かすには押すとか引くとかの力を加えなくてはなりません。なぜなら「止まっている物は止まり続けようとするから」です。

 というわけで、鍋落としの実験の種明かし。

 紐Bを引いた時、紐Bには引いた力がかかり、紐Aにはその力に鍋の重さが加わります。(重さと力は別物ですが、ここでは敢えてこだわらず話を進めます) つまり紐Aの方が鍋の重さ分だけ紐Bより力が加わります。それで力を加えると紐Aが切れ、鍋は落ちると予想されます。

 ここからがこの実験のポイントになります。紐を引く前は鍋は吊られていますから紐Aは鍋の重さを支える強さはあります。紐Bを引いた時、その力が紐Aに伝わるには鍋が動く必要があります。少しでも鍋が動いて、紐Aは引っ張られる力を感じるわけです。もし鍋が全く動かなかったら紐Aには紐Bからの力は伝わらないのです。

 イメージ実験です。重さ10トンの巨大な立方体の石があったとします。あなたはその石にもたれて立っていました。石の反対側をハンマーで叩いてもあなたは何も感じないでしょう。ハンマーで叩いたくらいでは重い石はびくともしないので、あなたには力が加わらないのです。

 もう一つイメージ実験。止まっている自動車を人が押す時、力を加えても最初は自動車は動きません。時間をかけて押し続けていると次第に動き始めます。この、最初の動かない時点で押すのをやめると自動車は動きません。

 紐Bを引くと、その力は鍋に伝わりわずかにでも鍋が動いて紐Aに伝わるのですが、力が加わった瞬間には上記の自動車と同じで鍋は動こうとしません。じわじわと時間をかけて紐Bを引くと、鍋は下に動き紐Aに力が加わります。このとき、紐Bには紐Bを引っ張った力がかかり、紐Aにはそれに鍋の重さが加わり紐Aが切れます。    紐Bを強く引いた時には鍋は下に動こうとしますが、強く引いたため鍋が動く前に紐Bが切れてしまいます。すると鍋は動かず力は紐Aには伝わらないのです。

 こうして、えいやっと強く引けば鍋は落ちず、びびってじわじわ引くと鍋が落ちるというのが実験の「落ち」です。

 

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