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20 ソイの解剖

サイエンスエッセイ 20
ソイの解剖
 
 塩焼きにしようとソイを買ってきた。ソイはメバルの仲間で見たところも似ている。頭でっかちでヒレも大きくとげとげしている。さて焼こうとすると、何と処理されていない。思わぬところでソイの解剖となった。
 
 まな板の上に置いて、まずは外観の観察から。シャーロックホームズになった気分で、岩場で砂地の浅瀬に生息している魚と見た。頭でっかちのスタイルは外洋を高速で泳ぐには向かない。マグロやカツオのように流線形ではない。下あごが大きく前に出た受け口は砂地の底生動物をすくうように食べるのに適している。大型輸送機の後部搬入口みたいなものだ。そして大きなヒレは低速で急旋回するのに都合がいい。ということは、きれいな白身だろうか。同じ白身魚でも鯛などはそれなり歯ごたえがあるが、それはソイに比べればよく泳ぐ体型をしているからで、運動量の少ないソイはより柔らかな身と予想する。
 
 まずは出刃包丁の刃先を肛門に入れ、あごの下まで一気に腹をさばく。肛門より後ろには内臓はないからだ。ちなみに脊椎動物の尾は肛門より後ろをいう。哺乳類ではわかりやすいが、魚類も同様だ。ということは厳密には尾ひれは「ひれ」であって尾ではないということになる。ただ、尾ひれも含めて尾ということもあるそうで、日常的な感覚では尾ひれも含めて尾ということになるだろう。
 さて、腹を開いたら内臓をかきだす。腹膜に囲まれた消化器官は、アジやサンマなどよりずるずるだ。活発に動かないということは内臓の柔らかさにも影響するのだろうか。内臓の中にひときわ固く赤い三角錐の固まりがある。心臓だ。心臓もサンマやカツオに比べて柔らかい。サンマやカツオのがこりこりしているのに対し、ぷよぷよしている感じだ。これも活動量のなせる技。高速で外洋を泳ぎ回るには強い心臓が不可欠だ。驚いたのは肝臓が白っぽいこと。肝臓は大量の血液が流れ込むため一般には赤い。ソイの肝臓は脂肪分が多いので白いそうだ。肝臓は胃や腸のような袋状の器官ではなく、構造物がむき出しの器官では最大なのですぐにわかる。
 
 さて、塩焼きにしてみると、身は真っ白でほろほろと柔らかく崩れる。このほろほろをより味わうには酒蒸しにすればよかったと後悔。次回は昆布でも乗せて蒸してみよう。 

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