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2023年台風第2号

Wada, A., 2023 : Roles of Air–Sea Interactions in the Predictability of Typhoon Mawar and Remote Heavy-Rainfall Events after Five Days. Atmosphere,14, 1638, https://doi.org/10.3390/atmos14111638.

最近の研究(Wada, 2023)では、2023年台風第2号に関する大気海洋相互作用と5日先の台風進路予測が日本南岸の豪雨予測に影響を与える可能性を調べました。台風の進路が転向する海域では海水温低下により台風中心気圧が上昇するだけでなく、台風域の渦の背が低くなり、対流圏下層の流れにより支配されるようになった結果、北東進がより顕在化することが数値シミュレーション結果から分かったのですが、台風の進路予測の改善という観点で見るとその効果は相対的に小さいことも同時に明らかとなりました。

https://www.mri-jma.go.jp/Dep/typ/awada/Akiyoshi_Wada-sjis.html

この論文、結果的には非静力学大気海洋波浪モデルを用いて、台風が停滞しているときに台風域の海面水温が下がり、それにより台風の背が低くなり、高度1500mの風の影響をより強く受けて北東進したというメカニズムを発見し、この知見は5日先の線状降水帯発生の予測精度の改善に活かせるかも、という内容になってしまったのですが、実はいろいろと試行錯誤していました。

発端はこの台風の予測です。世の中には台風第2号を予測するモデルは様々で、その中で比較的精度のよりモデルの結果は、予報の参考となることもあります。ただし”参考”の程度はモデルの結果ごと(初期時刻毎)に異なります。この台風は進路が北西~停滞~北東となるタイミングの判断が難しかった事例となります。

台風の中心気圧の予報は台風の強さを判断する上で重要な社会情報です。台風の強さの予報を作成する上で、モデルの結果はそのまま使われず、まずは”ガイダンス”と呼ばれるシステムを使って修正された情報を参考にします。ここでも”参考”という表現を使ったのは、値がそのまま出ていくわけではないためです。SNSが普及し、世の中に数値モデル結果をそのまま貼り付ける専門家もいますが、私はモデルの不確実さをきちんと説明した上で、ぞの図は何を示しているのかを解説する必要があると考えています。そうすると、いろいろなモデルそれぞれの結果を解釈する必要があり、特に即時的に判断しないといけない現場では、モデルの特性をあらかじめ理解しておく必要があります。でも初期時刻により様々なので、この判断に科学的知見は必要となります。

脱線した話を戻すと、直面した問題として、
○北西進した台風はなかなか北東に進む予測とならない
○とあるモデルは台風が停滞する海域でも発達する予測となっている
○この発達するモデルは実は北東進への転向の予測がよい
○この台風の影響を受けて、日本では線状降水帯が発生
☆東インド洋からこの台風の東側を通って、日本南岸に延びる”大気の川”のようなものがみられる

ということで、まずはうちの職場の別のグループが所有している地球システムモデルを動かしてもらって、アメリカのモデル予測結果も別途入手して、日本のモデル結果とともに研究を始めたのでした。

ちなみに台風の進路予測のデータは

から入手できます。

ところが地球システムモデルの結果からは、上記の問題、科学的興味に関する新たな発見ができず、行き詰ってしまいました。そこで科研費の研究ツールである大気波浪海洋結合モデルを使って、数値シミュレーションを行うこととしたのです。研究のターゲットも
台風の過発達の抑制→進路予測精度向上→線状降水帯予測精度向上
に絞りました。

論文発表について、大気波浪海洋結合モデルを使うという段階で、AGUやAMS系列は諦めました。前回のAtmosphere投稿論文の縁があって、今回Feature論文として発表することになりました。Atmosphereは中国系の研究者との相性がよいので、特に東シナ海や南シナ海に関わる台風研究成果を発表するのには良いかと考えています。

私はけっこう論文を書いてきたので、その点、欲はないのですが、自分が発見したことを知ってもらいたいという欲はあるので、科研費に関連するような台風事例については、今後も研究を続けていきます。

本論文で納得いかなかったことは、結局TIGGEデータセットにあるマルチアンサンブルや地球システムモデルのデータを上手く活かすことができなかったというところです。皆が知りたいことは、案外だれも研究していないというのは、研究のチャンスなのかもしれません。しかしデータを入手し、加工、解析する作業は大変です。ここ数年間、データを転送するために多くの時間を費やしているところです。


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