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海洋表層温暖化と台風に関する研究(海洋貯熱量に関する研究)

”海洋表層温暖化”は海の浅いところで水温は上昇しているよ、ということです。海の水温がどうして上昇するのかについては、以前出版した本に簡単に書きました。初版のままなのであまり売れていない本なのですが、結構な冊数を初版に出したという事情もあります。気象と気候、大気と海洋、観測、データ解析、数値モデルなど多岐に渡っているのは、それなりに経験の豊かな執筆者を選ばしていただいたからです。


https://www.beret.co.jp/book/44734

さて、現在実施している科研費での研究項目の1つはTropical Cyclone Heat Potential(TCHP)という名称のものです。私は”海洋貯熱量”とか”海洋蓄熱量”と呼んでいます。これをOcean Heat Content (OHC)とかUpper Ocean Heat Content(UOHC)と論文に書く人もいます。特にOHCはいろいろな定義があるので、私は熱帯低気圧の研究でTCHPと同じ式で計算したものについては、OHCは混乱を避けるために使用すべきではないという考えです。


TCHPの図

TCHPは”海水温26℃以上の海水の貯熱量”ですので、上の図の青く塗りつぶしたところの面積の値と理解していただければよいと思います。海面からほとんど水温が変わらない層は混合層、混合層の下で海水温が深さと共に急激に下がる層を水温躍層と呼びます。左図のように海面水温が高くても、深まるにつれて急激に水温が下がる場合もあれば、海面から水深50mよりも深いところまで、水温がほとんど変わらない場合もあります。TCHPの値が同じでも、海洋内部の水温分布が異なる場合があるのです。

さて、今回の科研費では、

https://search.diasjp.net/ja/dataset/FORA_WNP30_JAMSTEC_MRI

の北太平洋版のデータセットと、

のデータセットから従来のTCHP、改良版TCHPを計算しました。
改良版TCHPは大気の再解析データセットが必要なので、
JRA-55、JRA-3Q、ERA5を今回使いました。

熱帯低気圧のデータセットは、

を使用しました。

研究内容の紹介については本の出版が8月ということで、今回は本の宣伝です。一部は日本気象学会で学会発表しています。

私の章はオープンアクセスなので、ダウンロードして読んでいただけると嬉しいです。

本当は違う雑誌に投稿する予定でした。投稿料の割引を利用するつもりだったのです。しかし某MLでこの本が企画されていることを知りました。
自分のこれまでやってきた高価な研究(高解像度の結合モデルやデータそ同化システムの開発)は定年後(ここでは55歳以降)の研究活動としては継続が期待できないものの、TCHPの研究はデータセットがあれば必要なリソースは少なくて済みます。加えて、”リスク”という社会的側面をあつかう研究コミュニティーの和に加わることで、これまで取り組んできた学際的研究とは別の観点で学際研究ができそうと考えました。文理融合というのが最近キーワードになっているようですが、私は人間学(災害心理学)にもAIにも興味を持っていて、これらはすべてデータサイエンスに内包されるというイメージを持っています。そんな活動のできる仕事場があればよいのですが。

ところで科研費では国際連携が求められている傾向にあります。しかし私はここ2年間、せっせとデータセットを準備してきました。今回このような成果をこういう形で出すことで、気象・気候・海洋以外の連携の話があることを期待しています。実際に本科研費の研究協力者は増えています。本書で得た人脈がうまく活かせたら、うれしいです。

出版されたら、章の内容を解説したいと思います。


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