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コロナ危機の経済学&コロナ危機、経済学者の挑戦

今回まとめるきっかけ

コロナが流行りだして真っ先に「Withコロナ」、つまり感染症を完全に克服するのではなく、コロナウイルス以外の感染症の発生も踏まえ、感染症との共存社会を目指すことを提唱した安宅さんが面白いツイートしてた。

集団免疫があるのにマスクを強制するのは時代錯誤らしい、
まじで知らない人がこんなツイートしてたら(発言者で内容の良し悪し決めるの絶対ダメなんだけど)注目されたくて逆張りしてんだなって絶対思ってしまう…。

このツイートを見て、そういえば昔にコロナ×経済みたいな本買ったけど、内容覚えていないな…
ってのと、最近またコロナ×経済の本(緑の方)を買っていたのを思い出したので一緒にまとめようと思った。

コロナ危機の経済学のメモ

どんな人が書いているか

いろんな経済学者の寄稿集みたいな本。発売当時2020/7/17なので注意。

序章: コロナ危機と日本経済

コロナ危機は、生産・消費といった経済活動自体が感染を拡大させるという点で、過去の経済危機や自然災害とは顕著な性質の違いがある。
不況に対しては、金融政策・財政政策で需要を刺激するのが処方箋となるが、コロナ危機の場合は需要拡大自体が感染拡大を助長し、危機を深刻化してしまう。

生産活動自体が外部不経済効果を持つという点で
水質汚濁や大気汚染といった公害問題と類似しているが、
・対象が広範なセクターである点
・消費活動も負の外部性を持つ点
・拡大のスピードが極めて速いという点
で大きく異なる

2020年時点で最も特徴的な研究は
医学分野で標準的な感染症数理モデル(SIRモデル)を経済活動を折り込む形に拡張した理論モデルを構築し、一定の仮定の下に感染者数と経済的影響をシミュレーションして、最適な社会的隔離政策を検討するタイプの研究である。
もう一つは、経済的影響をリアルタイルに近い形で把握したデータ分析である。政府統計ではなく、株価、携帯電話の位置情報、クレジットカードの購買履歴やPOSデータ、民間のオンライン求人求職データ、新聞報道のテキスト分析などが使用されている。

第1部: 今、どのような政策が必要なのか

検査•追跡•待機が有効である
2020/1/15 日本でコロナ陽性1例目
2020/4/14 IMFによる試算では、日本が同時の現状通りの経済停止を6月まで続けた場合、GDPが-5.2%と算出された
コロナがない場合の経済成長率を控えめに0%と仮定すると、1年間経済停止にした場合のGDPは-10%程度であり、損失は25-50兆円である

上記の経済停止を回避する仕組みとして
検査・追跡・待機システムを拡充すると想定すると
PCR検査を毎日10万件(1件の検査費用が2万円)PCR検査要員と接触者の追跡要員として10万人を雇用(1人あたり2000万円の報酬と経費)
待機施設として民間のホテルや旅館から50万室を借り上げる(1日1室2万円)
と仮定して年間5兆円がかかる試算になる。
つまり、5兆円のコストで50兆円の経済損失が回避できることになる。

->半年で-5%だから1年で-10%って計算の仕方ダメじゃない?
と思って95%×95%したら、90.25%だった、あってました。

また、大規模な検査・追跡・待機システムは感染リスクの不安を軽減できる。経済を活性化させるには、感染を恐れて消費者や労働者の活動を減らすことを防がなければいけない。
さらに、検査・追跡・待機システムの拡充には、非医療界の資源を利用できる可能性があり、懸念されている医療のキャパシティ不足を軽減させる効果がある。

行政支援の効率化
マイナンバーを利用したデジタル政府を実現し、国民が行政側に申請して手続きがスタートする「プル型」ではなく「プッシュ型」を推進していくべきである。

貿易
特定の一国に依存しないグローバル・バリューチェーンを形成することで、リスクを低下させるべきである。

医療制度
重複聴診を避けるべく「かかりつけ医制度」を確立すべきである。これにより、不要な医療キャパシティの圧迫を防ぐことができる。

第2部: コロナ危機で経済、企業、個人はどう変わるのか

SIRモデル
SIRモデルとは
Susceptible(感染症への免疫が無い人)
Infected(現在感染している人)
Recovered(感染症から回復して免疫を保持している人)
で、感染症が拡大•縮小する過程を表す数理モデルである。

➀S(t+1)-S(t)= -β×S(t)/S(0)× I(t)
->
(左辺)感染症への免疫がない人がどれだけ減少するか、つまりt -> t+1で、どれだけ感染するか
(右辺)感染力を表す係数β ×(時点tにおけるS/感染発生前のS、つまり総人口)×(感染者数)

➁R(t+1)-R(t)= I(t)×γ
->
(左辺)t -> t+1で、どれだけ免疫保持者が増加するか
(右辺)感染者のうち、平均してどれくらいの比率が回復するのかを表す係数γ
γ=0.2の場合、感染力のある期間が5日間であり、期間の逆数1/5がγになる

➀-➁
= I(t+1)- I(t)
=β×S(t)/S(0)× I(t)- I(t)×γ
->感染者数の増加分から回復者数を引いたもの

ここで、β/γが基本生産関数とよばれ、免疫がある人がいない場合に1人の感染者がうつす人の数である。

基本戦略として、緩和戦略や抑圧戦略、一定のロックダウン発動の感染者基準を設けた上で、緩和と抑圧を交互に行う戦略が存在する。

消費
POSデータを元にした集計によると
マスク・除菌製品・トイレットペーパーの需要が大きく増加、在宅勤務への切り替えによるパソコンの需要増加、調理不要であったり簡単な調理で済む食品の需要増加、化粧品の需要減少が観察できた。
また、食品・日用品以外も含めた消費に対しては、インバウンド旅行者による支出減もが大きく影響している。

企業
東京商工リサーチの収集したデータを用いてコロナ前の2019/2-4と2020/2-4で業種別の倒産確率を比較すると、製造業・宿泊業・飲食サービス業の倒産確率が相対的に高いことがわかる。

企業支援において、
本来救済すべき企業を救済できないこと(第一種の過誤)と
本来廃業すべき、市場から撤退する予定の企業を救済して延命してしまうこと(第二種の過誤)
といった失敗が失敗が存在することが知られている。

個人
労働者の業種・正規/非正規・学歴・性別によってコロナ危機の影響を受けやすいかどうかが大きく左右される。また、エッセンシャル・ワーカーの過重労働や、在宅勤務導入によって生産性が変動すること、都市としてどのような機能を持つか、都市間の移動をどのように制限すべきか、子供への教育アクセスをどのように確保すべきか、と言う論点がある。

コロナ危機、経済学者の挑戦のメモ

どんな人が書いているか

著者の二人は、最初は二人だけで分析を進めていたらしい。
有識者によるオンラインでのメディア向け意見交換会で、分析結果を紹介し、徐々に外部からの依頼が増えて、メディアからの取材も増え、チームの人員も増やしていった…という感じらしい。
めちゃくちゃ有名な〇〇経済学の権威!!というわけではない。
経済セミナーという雑誌の編集者が、二人にインタビューする形式の内容。

気になった章だけ感想書きます。

第2章 感染と社会・経済の見通しを描く――数理モデルと政策分析

感染症モデルを拡張した疫学マクロモデルを使用して分析していた。
2週間に1度というペースで分析結果を出し、ホームページで更新するという作業が大変だった。
経済学でよくある、人は最適化問題を解いて合理的な意思決定を行うという仮定を用いずに分析した。理由は下記の通り。
・1回の計算に非常に時間がかかること、そのせいで様々なシナリオで分析を回すのにも時間がかかること
・計算上のエラーが出やすいこと
・仮定を用いないシンプルなモデルでも同じような結果が得られること
・仮定を用いると、解釈が難しい結果が出る可能性があること

複雑なモデルを用いると、政策の効果と人々が合理的に行動した結果による効果を要素別に分解できるというメリットもあるが、単純なモデルを用いることを選択した。

第3章 感染症専門家との対話――リスクをどう捉えるか?

公衆衛生の専門家とは、ワクチン配分と接種の影響をモデル化して、最適な配分方法を検討していった。
この際に、公衆衛生の専門家は感染拡大を最小限にしようという思考だが
経済学者は経済と感染のトレードオフを最適にしようとする思考なので
この差を埋めるようなコミュニケーションが難しかった。

第4章 分析チームの構築とマネジメント――「毎週更新」実現のために

チームは4つに分かれており、
1: 都道府県別のGDPデータ作成チーム
2: モデル分析チーム
3: 日々の感染状況に対する分析以外の分析を行うチーム
4: 研究論文を執筆するチーム
がある。

日々の分析を行うときは、チーム1によって作成されたデータを
チーム2が感染状況のデータと合わせて分析を行っていた。
チーム1は、データのフォーマットが異なる場合・変化した場合のデータ成型、チーム2は変異株やワクチン接種などによるモデルの拡張や、外部からの分析依頼(例えば、病床数が2倍になった際の経済効果推定など)に対応していた。

チーム3は、五輪開催による影響分析や、コロナ化における自殺者数の動向に関する分析などを行っていた。

全体として、学生中心のチームであったため、学期が切り替わるタイミングでの教育・分析能力の維持が大変であった。

第5章 五輪分析に込めた想い――分断を乗り越えるために

五輪開催の際に入国する約10万人の影響は、分析を行う前はとても大きいと予想されていた。しかし、分析の結果によると実際には影響は限定的であった。コロナ禍であっても、東京で活動する人数は1400万人ほどであり、それに対して10万人が流入する影響は小さかった。

この際、五輪開催という結果ありきのメッセージとして伝わってしまわないか注意しながら
直接的効果: 五輪会場の往来
間接的効果: パブリックビューイングやライブ、お祭りムードによる外出増加や感染対策の怠りによる影響(ABM: エージェント・ベースド・モデルで影響を推定)
に分けて効果を推定したところ、間接的影響は十分に大きくなりうるという結果を得たため「国内の人流抑制が鍵である」というメッセージを出した。

->ABMを大阪府立大学の学生のスライドで何となく感じてほしい

第6章 メディアとの対話――伝えることの難しさ

分析の結果、トレードオフ曲線が下方へシフトする場合は~すべきという提言を出すこともあったが、基本はトレードオフの中での選択肢を提示し、判断材料を提供するのみで留める姿勢をとった。
これは、研究者という立場の影響力の強さを考慮したうえでの判断であったが、提言を行わないとメディアに発言が採用されないということがしばしばあった。

第8章 感染症対策の背後で起きていること――広い視野で議論するために

コロナ禍における自殺者
失業率は、経済活動の停止からタイムラグを経て反映されるという特徴があり、分析対象として扱うのは難しかった。
一方で、日本では失業率と自殺者の数に正の相関があるという研究をもとに、コロナ禍がなかった場合の失業率を想定し、その際の自殺者数をベースラインとして実際の人数を比較した。
分析の結果、2020/3-2021/8までに約4400人もの追加的な自殺者が存在していることが分かった。

また、経済損失とコロナ感染による10万人あたり死亡者数をもとに「コロナ死者を1人回避するためにどれだけの経済損失を受け入れるか」というWTPを各国・日本の各都道府県で算出した。
国別で見ると大体WTPは1億円以下であり、日本: 約20億円、アメリカ: 約1億円、イギリス: 約0.5億円 という結果だった。
都道府県別に見ると、集計当時に死者が1人のみだった島根県が約700億円であり、東京都や大阪府は約5億円であった。

2021/8以降の急激な感染者数減少について

2021/8以降の急激な感染者数減少について、感染者増加のみならず、国民が疑問に思うような現象について分析し、納得する説明ができるように努力してきた。下記の6つの仮説のうち、2,3,6が定量的に感染者減少に貢献しうるという結果になった。
1: 天候(雨が多く、湿度が高く、気温が低かった)
2: デルタ株の基本生産関数が想定より低い
3: 感染に周期性がある
4: 実際の累計感染者数はPCR陽性者より多く、集団免疫に近い状態だった
5: 活発な高齢者以外において、ワクチン感染予防効果が想定より高い
6: 医療逼迫に起因したリスク回避行動

東京都における新規陽性者数

->画像左の山についての話。今になってみると数が大したこと無いな…
って同じことを未来からみた今に対して思うのかなー

読んだ後

感想

古い方の本(コロナ危機の経済学)の内容について、過去の分析の結果が今見るとどれくらい正しかったとか考えれたらいいんだけど、そんな能力無いな。それか、最近の研究結果を見て理解できるまでなれたらよかったな。

新しい方の本(コロナ危機、経済学者の挑戦のメモ)の内容について、政策への提言って研究者の出世という面から考えるとメリットないらしいんだけど、自発的な分析からチームを大きくしてここまで貢献できるようになったのめっちゃかっこいいな。政府による、俺が考えた最強の経済学者チームに分析してもらう!とかではないんだよな。