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フルトヴェングラーに捧ぐ 第1巻

Spectrum Soundが復刻したフルトヴェングラー板起こしの4枚組CDで
「Hommage á Wilhelm Furtwängler Vol.1」というものがある。
日本語にすると「フルトヴェングラーに捧ぐ 第1巻」といったところ。
どうも韓国向けの商品だったようで、HMV等で国内販売された形跡がない。

HQCD/SACDバージョンの計画もあったようだ ※後述の解説に記載あり

型番は「MZD 1117」。MUSIC ZOOという会社がSpectrum Soundから
ライセンスを受けて販売していたらしく、このような型番のようだ。
(通常のSpectrum Soundの型番は「CDSM」や「CDSMA」で始まる。)

左下には「Printed in Korea」。2011年の製品だったことも読み取れる。

収録されている演奏

CD1

・シューマン 交響曲第4番 BPO 1953年5月14日
 (原盤:German DGG Alle Hersteller ED 2 LP)
・リヒャルト・シュトラウス 交響詩「ドン・ファン」 VPO 1954年3月2-3日
・〃交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」〃
 (原盤:U.K HMV ALP Red Gold ED 1 LP)

CD2

・ブラームス 交響曲第3番 BPO 1954年4月27日
 (原盤:German DGG ED 1 LP)
・ベートーヴェン 交響曲第4番 VPO 1952年12月1-2日
 (原盤:U.K HMV ALP Red Gold Heavy Flat ED 1 LP)

CD3

・ブラームス 交響曲第1番&ハイドン変奏曲 NDR 1951年10月27日
 (原盤:フランス・フルトヴェングラー協会 ED 1 LP)

CD4

・ベートーヴェン 交響曲第5番 BPO 1947年5月27日
 (原盤:German DGG Alle Hersteller ED 1 LP)
・シューマン 交響曲第4番 BPO 1953年5月14日
 (原盤:German DGG Alle Hersteller ED 2 LP)

CD1とCD4でシューマンの交響曲第4番が被っていて
原盤となっているレコードまで全く一緒なのだが、
違いはレコードを再生しているカートリッジだけである。
CD1ではOrtfon Cg-25 Old type original Mono Cartridge、
CD4ではEMT XMD-25 Mono Cartridge※が使われているらしい。
※おそらく、これは「EMT TMD-25」の誤記と思われる。

ベスト・レコーディングと名高いシューマンの4番や
NDRとのブラ1、戦後復帰の運命も含まれる名演揃いで
非常に豪華と言って差し支えないセットである。

特に、NDRとのブラ1の仏協会LP復刻と戦後復帰の運命は
フルトヴェングラーの板起こし復刻で定評のあったレーベルの
DeltaやWINGからは発売されなかったので貴重である。

NDRとのブラ1はDeltaからDCCA0041として発売されていたが、
音質に優れる仏協会のLPからの復刻ではない点が残念だった。
また、Deltaの戦後復帰の運命(DCCA0027)はLP復刻ではない。

ちなみに、いずれもMYTHOSからは発売されていた。
・NDRとのブラ1の仏協会LP復刻(MPCD5028
・戦後復帰の運命(MPCD5003

ただ、MYTHOSは音圧を上げた迫力あるマスタリング処理をしていたので
鑑賞にあたり自然な再生音を望む場合、その点がネックになるであろう。
また、MYTHOSの仏協会LP復刻には「ハイドン変奏曲」が含まれていないが
Spectrum Soundのセットには含まれているので、その点でも貴重である。
逆に、戦後復帰の運命とのカップリングでMYTHOS盤には収録されている
「エグモント序曲」がSpectrum Soundのセットには入ってないのが残念。

肝心の音質は、Spectrum Soundの安心して聴ける音作りである。
レコードの再生ノイズを抑えるよう気を遣って再生しているようで
DeltaやWINGと比べると鮮明さや迫力に欠ける印象はあるものの、
Western Electric 618BやMarantz #7、FM122 MKIIといった
高級アナログ再生機器を惜しみなく使ったレコード復刻であるためか
歪みが少なく豊かに響く楽音を聴くことができて音楽に没頭できる。

このCDにおける「ピッチが高い」という問題点

実は、この「Hommage á Wilhelm Furtwängler Vol.1」には
ピッチが高くなってしまっているという大きな問題点がある。

以下にそれぞれのトラックの収録時間を記載してみた。
私が所持している範囲内ではあるが、正規レーベルによる
同一演奏CDの収録時間を括弧内に併記している。

[CD1]
・シューマン 交響曲第4番 BPO 1953年5月14日
※参考としてDG正規盤である「457 722-2」のタイムを括弧内に追記
Track1 第1楽章 11:40 (11:52)
Track2 第2楽章 5:19 (5:21)
Track3 第3,4楽章 13:38 (13:57)
・リヒャルト・シュトラウス 交響詩「ドン・ファン」 VPO 1954年3月2-3日
Track4 18:18
・同「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
Track5 15:49

[CD2]
・ブラームス 交響曲第3番 BPO 1954年4月27日
※参考としてRIAS正規盤である「AU21403」のタイムを括弧内に追記
Track1 第1楽章 10:25 (10:49)
Track2 第2楽章 9:41 (9:55)
Track3 第3楽章 6:29 (6:40)
Track4 第4楽章 9:25 (9:41)
・ベートーヴェン 交響曲第4番 VPO 1952年12月1-2日
Track5 第1楽章 10:25
Track6 第2楽章 11:37
Track7 第3楽章 5:53
Track8 第4楽章 7:25

[CD3]
・ブラームス 交響曲第1番&ハイドン変奏曲 NDR 1951年10月27日
※参考としてNDR正規盤である「NDR 10132」のタイムを括弧内に追記
Track1 第1楽章 14:46 (15:01)
Track2 第2楽章 9:54 (10:08)
Track3 第3楽章 5:13 (5:16)
Track4 第4楽章 16:56 (17:17)
Track5 ハイドン変奏曲 20:38 (21:02)

[CD4]
・ベートーヴェン 交響曲第5番 BPO 1947年5月27日
※参考としてDG正規盤である「ORG 1001」のタイムを括弧内に追記
Track1 第1楽章 7:37 (7:51)
Track2 第2楽章 10:45 (11:02)
Track3 第3,4楽章 13:33 (13:56)
・シューマン 交響曲第4番 BPO 1953年5月14日
※参考としてDG正規盤である「457 722-2」のタイムを括弧内に追記
Track4 第1楽章 11:35 (11:52)
Track5 第2楽章 5:17 (5:21)
Track6 第3,4楽章 13:33 (13:57)

比較してみると、「Hommage á Wilhelm Furtwängler Vol.1」の収録時間は
総じて他のCDの収録時間より短くなっていることが読み取れると思う。
レコードの再生速度が速かったためピッチが高くなってしまっているのだ。

音楽を鑑賞するにあたりピッチが高いのは正直やはり気になり、
音質そのものは良好な復刻なだけあって尚更この点が惜しまれる。

幻となった第2巻~第5巻の計画

タイトルで「Vol.1」と銘打っていることから推察できるように、
このCDセットにはVol.2以降の計画があったようで解説に記載がある。
どうやらCD4枚組が5セットで計20枚となる予定だったらしい。

しかし、Vol.2以降の情報がWeb上に皆無であることから見て
実際には発売されることなく幻に終わってしまったようだ。
もしかしたら、先述のピッチの問題も影響したのかも知れない。

ブルックナー交響曲第7番のFALP復刻やDECCAのフランク交響曲などが計画されていた
右側にはSpectrum Soundが復刻に使用した機器が記載

しかし、最終巻Vol.5の最後の1枚「Disc 20」で予定されていた
"バイロイトの第九"のU.K HMV ALP ED1からの復刻に関しては
2年後の2013年に“第九”ボックス(CDSMAC015)で実現している。
しかも、この“第九”ボックスの解説にはCD外装のタイトルと異なる
「Hommage á Wilhelm Furtwängler」の文字があるのだ。

幻に終わった「Hommage á Wilhelm Furtwängler」シリーズの
遺伝子を受け継いだ復刻であることが示されているのかも知れない。

第九”ボックス(CDSMAC015)の外装と解説


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