薬価と原価のはなし 2020.03.08
昨日夜ルシエルさんの「星のカタリバ」でお話をさせていただいた内容から、お金に関わることを少し書いてみようと考えた。昨年末に工業簿記の勉強を始めて、ものの価格の成り立ちを学ぶまでは知り得なかった事柄でもある。
病院で処方される薬の価格は国が決めており、2年ごとに改正されている。今年がそれに当たり、4月1日から新しい薬価となる。全体としては年々少しずつ値段は下がっているのだが、個々の薬によって下げ幅は違う。ほとんど値段が下がらない薬と、大幅に下がる薬と落差が大きいのである。
細かく収支を管理している方々は、医療機関で渡す明細もしっかりチェックしておられるので、何がどれくらい変わったのかには非常に敏感なのである。だから、改正前と値段がほとんど変わらない薬について説明を求められる事もある。負担金も医療費も節約すべし、という考えは確かに一理あるが本当にそれでいいと言えない事情が発生しているのも事実である。
価格の決定は薬が市場でどれほど利用されているのかと多少は関連はしているようで、汎用性の高いもの、一定期間を過ぎ同じ系列の薬が何種類もあるようなものは下げ幅が大きい傾向はあるが例外も多数ある。中には薬価が原価(薬の元々の値段)を下回る薬剤も少数ながら存在している。そのような薬は使えば使うほど赤字になってしまうのである。
薬の原価は、ざっくり述べると材料費など製造に直接関わる費用と、製造工程で発生する間接費の合算によって決まっている。薬価とは企業が薬を販売する時の価格とはまた異なるのだが、原価と売値より薬価は僅かに上回るのが原則である。つまりは薬価が下がると他の二つも下げざるを得なくなるということである。利益は縮小するので、現状維持のためには原価はどうしても下げなければならない。
現在、様々な理由(消費税増税を含む)によって、材料費は上がる傾向にある。そうなると原価を下げるには他の部分を切り詰めなければならなくなる。ある程度であれば、人件費や設備投資のお金を節約する事はできるかもしれないが、下げ幅が一定のラインを超えたらどうなるのかというと、
採算がとれないので薬が作れなくなるという状況が発生する。新しい薬が毎年発売されている裏では、それ以上の数の薬が市場からひっそりと消えているのである。(追記;売り上げ(需要)が伸びない理由以外で、作るのを止めてしまう薬も少なからずある)
また、余剰なく計画分だけぎりぎりで生産している企業も多く、何かの不具合で工場が一時的に生産を見合わせるような事態になると、供給がストップし欠品という状況があっという間に起きてくる。需要に供給が全く追いつかない状況が、薬の世界では数年前からちょくちょく起きている。薬の値段が下がることによって安定供給が難しくなっている薬も多いのである。その中に他に換えのない薬が含まれていると、現場薬剤師は在庫確保のために頭を悩ませることになるのである。
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