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占星術における月のはなし(5) 月と母親像・女性イメージについて


 以前に述べた月の生育歴との関連について、母親像という視点から今回は書いてみたい。月は女性あるいは女性性の原理を表すという解釈との関連も含めての話である。

 

 月は母親、妻、女性と多面的に解釈されることも多い。個人の誕生図における月を母親そのもの、あるいは母親の生まれた当時の状況を示すと捉えることもできるが、その中には子供の目から見た母親像、あるいは子供のころに深く関わった養育者から取り込まれたイメージが含まれていると個人的には解釈している。また月は女子であればのちの自己像、男子であれば一般的な女性像として定着する総体的イメージの断片を表すと捉えることも可能であろう。


 誰の中にも必ず存在する母親のイメージが個人の人格形成に与えるインパクトは非常に強く、“母とは““女性とは“の個人的定義に不可欠なピースとなっている可能性が高い。実際に幼い頃に見慣れた母の姿は自分自身がその時の親の年齢を超えてもなお、日常の世界で出会う女性に様々な形で投影されている。全くの他人に母親の面影を垣間見る、あるいは誰かとのやり取りの中で相手と母親の共通点をなんとなく探している時、それが投影の一形態であると理解するのは難しくはないだろう。


 
 また子供は親のすることを模倣し、遊びの中や他者と関わる場面でそれらを再現することもある。模倣は意識的に行われることもあれば、無意識な場合もある。母親や身近な養育者は子供が社会スキルを身につけて行くための、最も早期で重要な学習リソース(お手本)なのである。そしてそれは親自身が子供に直接教えて身につけさせようとした事柄に加えて、子供自身の擬似体験によって身についたスキルであり、友人や恋愛対象のような親密な関わりで再現されやすい。月のサインは本人と母親の間で起きた出来事の中で、日々母親から言われたり教えられたりして、自分が無条件に受け入れてきた事柄や、観察と模倣により身につけようとしてきた母親の一面を表してもいるのではないかと私は考えている。


 今まで述べてきた事柄は、子供が成長して行く上での自然な過程と言えるかもしれないが、占星術から見た月の特性を考慮した時に、一点だけ注意を払っておくべきことがあるように思う。


 それは月の年齢域を鑑みた時、人生経験が不十分で自我の発達途中である子供が抱く母親像は、母親の実像、あるいは対等な立場の大人が描くそれとはかけ離れている点にある。月が示す母親像は、それが肯定的か否定的かよりも絶対的であることが問題なのである。そしてその“絶対性“は成長した個人が他者と親しい関わりを持とうとする時に、度々地雷のように働いて個人や相手を苦しめてしまう事がある。残念なことに、情報のフィルター(自分で取捨選択をすることのできる情報の仕分け能力)が確立する前の幼少期に一度作り上げられた母親像を壊すのは非常に難しいのである。


 個人の誕生図の月の立ち位置を慎重に読み解いて行くと、母親や第一養育者との関わりと、その後の人生で繰り広げられる対人関係の繋がりが少しずつ見えて来ることがある。月と他の天体とのアスペクトが厳しい場合、幼少期に母親や母系家族のことで非常に苦労しているケースは多く、月にアスペクトを取る天体のネガティブな側面が、外で人と関わる際の感情や行動に分かりやすい形で現れる傾向があるように思う。また月のサインは子供の目から見た母親の性質のうち、最も強く印象づけられた側面を示すこともあるようだ。


 
 一例として、月火星がコンジャンクトする組み合わせについて簡単に述べる。月に火星のアグレッシブさが加わり、常に動いていないと気が済まない、待てない、イライラしやすいなどの性格傾向として現れることが多い。今回のテーマとの関連では、子供の頃に母親が神経過敏で怒りっぽく、感情的になるとすぐ手を上げるような人物であったか、あるいは逆に非常な癇癪持ちで母親が養育に手を焼いたケースに見られることがある。そして同じ行動傾向は他の女性、とりわけ自分から見て母親と同じくらいの年齢差のある人や、母親に似ていると認定された人物に対して繰り返される傾向があるように思う。


 そして月火星のサインは、個人にとって女性の何が一番目につくのか、あるいは他者に対して自分をどう扱って欲しいのかを知る手がかりともなり得る。例えば月火星のサインが牡羊座であったなら、女性の気の強さや気分屋なところが気に入らなかったり、相手は普通に接しているのに自分に対して攻撃的と捉える場合もあるだろう。また他者に対しても言われたらすぐ実行、あるいは自分がすることの邪魔はするなと要求するかもしれない。火星は牡羊座のオウンサインで非常に勢いが強く月はその影響をまともに受けるので、概して相手と感情的で激しいやり取りになりやすく、自分から折れることなく強引に意見を通そうとするなど、まるで自分が母親からされた通りを他人にしているようにすら見える事もある。


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