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あこがれのアップルジェリー

ジェリーといっても、冷たいデザートのことではありません。皮ごと煮詰めた果物から果汁を抽出して、そのペクチンでふるふると固めたもののこと。

もう30年くらい前だと思うのですが、アップルジェリーというものについて、辰巳芳子さんが書いていらした記事を読みました。一晩かけてぽたぽたと汁をためて作る美しいガーネット色のジェリー、というのに憧れて、その記事の切り抜きをだいじにだいじに、本にはさんでとっておいたのです。

いつか作ってみたい、その美しい色を見てみたい、と思いながら、1kgものりんごを煮ることや、そのりんごをさらしの袋に入れて一晩吊るしておく場所のことなど考えると、なかなか手を出せなかったものでした。

ジャム作りを始めた今では、りんご以外の果物(グロゼイユとかマルメロとかカリンとか)でも、ジェリーを作るようになりました。もとになっているのは、やはり辰巳芳子さんの「アップルジェリー」何度作っても、その美しさに魅了されます。今ではすっかり私のレシピになって、もとの作り方とは変わっているところもありますが、その作り方をご紹介します。

りんごは、紅玉を使います。なんといっても色が美しく仕上がります。
皮をよく洗ってからくし形に切ります。芯はとりません。紅玉なら5~6個くらいで1kgになるかと思います。これを鍋に入れ、かぶるくらいの水を加えて火にかけます。沸騰したら火を弱め、ふつふつするくらいの火加減を保ちながら1時間ほど煮ます。自然に実がくずれてくるくらいまで、りんごの大きさや質によって時間は変わります。

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長時間煮るので、鍋はステンレスなど酸に強いものを使ったほうがいいです。私は、最近はホーローびきの鍋で蓋をして煮ています。水分の蒸発が少なくなりますから、最初に加える水はひたひた程度でいいのです。いずれにせよ、りんごの実がくずれてくるまで煮ます。りんごの皮の色もすっかり抜けて、はがれて、実はこれくらいくずれるくらいまで、です。

りんごの実がほろほろとくずれてきたら、煮汁ごとさらしの袋に入れて吊るします。さらしを縫って袋状にしておけば入れやすいと思います。私は、こんなふうにさらしの上をぎゅっとしばって巾着のようにしています。しばった紐をシンクの上の棚にS字フックで吊るし、シンクにボウルを置いて汁を受けるようにし、一晩置いています。吊るす場所がない場合は、大きめのボウルの上に万能漉器をわたして、その中にさらしの袋を置く方法でも大丈夫です。

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ここで大事なのは、けっして押さえつけたり絞ったりしないことです。りんごの実の重さで、ぽたぽたと汁がしたたり落ちるのを待つのです。辰巳芳子さんは、これを「したみ汁」と書いていらっしゃいました。美しい日本語だと思いました。したみ汁が落ちきるまで、りんごの量にもよりますが、5~6時間はかかるかと思います。ボウルにたまった汁は、上の写真のようにうっすらと濁っています。

したみ汁の重さを計って鍋に入れます。加えるグラニュ糖の量は、汁の重さの8〜9割くらいです。もう少し減らしても大丈夫かと思いますが、寒天と同じで、砂糖の量が増えるほどジェリーの透明感が増します。上白糖よりも純度の高いグラニュ糖を使ったほうが仕上がりがきれいですし、甘さもすっきりとして、りんごの風味が生きると思います。

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グラニュ糖とレモン汁を加え、絶えず底からかき混ぜながら煮詰めていきます。このとき、泡立てて空気をいれないように注意します。途中、細かい泡がぶわーっと立ってくるので、鍋は大きめのものを使用したほうがいいかと思います。アクが出たら取り除きます。煮詰めるにしたがって、うすにごりの果汁がこんなふうに透きとおってきます。

火を止めるタイミングは、最初はなかなかわかりにくいかと思います。だいたい半量くらいまで煮詰まって、少しとろみがついた頃。みきわめるには、少量を小皿に取って冷まし、表面が固まるようなら大丈夫です。煮詰めすぎるとジェリーというより水飴みたいになってしまいます。それはそれで、りんご飴みたいでおいしいのですけれど。

火を止めたらすぐ、熱いうちに保存瓶に詰めます。瓶はあらかじめ煮沸消毒しておくこと。長期保存するなら、蓋は新しいものを使用すること。瓶の容量に対して90~95%くらい詰めて蓋を閉め、1~2分置くと熱で空気が膨張して内圧が高まります。ここで一瞬ほんの少しだけ蓋を緩めると、隙間からシュッと空気が抜けて密封されます。正しく脱気できていれば、常温で半年以上保管できます。

このジェリー、作りたてよりも半年くらい置いた方が味が馴染んでおいしくなるのです。できたては、なんというか砂糖の甘みが前面に出てしまう気がします。

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瓶が逆立ちしているのは、脱気をおえたものを区別するためと、きちんと詰められたか確認するためです。ひっくり返したとき、上に少しだけ空間ができれば、正しく詰められています。

ほんとうに美しいガーネットのような色に仕上がります。
色味は少しかわりますが、もちろん紅玉以外のりんごでも作れます。イギリス原産のブラムリーという青りんごで作るジェリーは、透きとおる紅茶のような黄金色にも見える色に仕上がって美しい。

イギリスでは、このアップルジェリーに大量のミントの葉を加えて作るミントジェリーを、ラム肉などに添えて食べるのだそうです。

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パンにのせるのもいいですし、私はこんなふうにヨーグルトに入れて朝食にいただくのも好きです。瓶に入っていたときよりは淡いピンクで、ふるふるとしたジェリーは、ほんのり甘くりんごの香り。緑のほうは、青レモンを使ったマーマレードです。

このジェリーは、こうしてそのまま食べるほか、パイナップルや洋梨などペクチンの少ない果物でジャムを作る時のとろみづけにも使うので、毎年多めに作っています。開封しなければ常温で半年以上もつので、日の当たらない涼しい場所にしまっておきます。少しずつ色は褪せてきますが、味わいは深くおいしくなっていきます。

くずれるまで煮ることや、一晩かけてしたみ汁をとること、気長に煮詰めること、そして瓶詰めした後も、時間がおいしくしてくれる。ゆったりとした気持ちで作りたい、アップルジェリーです。

【補足】アップルジェリーがふるふると固まるのは、ペクチンと酸と糖度の働きによります(㏗3.5以下 Bx65以上)ユスラウメで作るジュレについては、以前こちらに書きました。


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