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2023年東京優駿回顧

ソールオリエンスがどういう勝ち方をするのか。馬券の買い方は十人十色あったとしても多くの人が期待していたのは、先週のオークスのリバティアイランドのように圧倒的なヒーローが力の違いを見せつけて駆け抜けていく姿だったのではないかと思います。
しかしそういう絵は見られず、数字的な結果を見ると凡戦と言えるレースとなってしまいました。
一体何があったのか自分なりに読み解いていきたいと思います。

きつかったオークスと緩々過ぎたダービー

逃げたパクスオトマニカの作ったペースは1000mの通過タイム1:00.4は前週のオークスの1:00.0よりやや遅いが、これは誤差の範囲とも言えるペースでした。
オークスは逃げたライトクオンタムからキミノナハマリア、イングランドアイズ、ラヴェルといった面々が先行グループを形成し、その後のペースは淀みなく2000mの通過タイムは2:00.0、つまり1Fあたりきっちり12.0のラップを刻み続けました。
それに対しダービーですが、逃げたパクスオトマニカのペースは1000mからがくんとペースが緩み、1600mまでの3Fは12.4-12.8-12.4と37.6秒もかけています。にもかかわらずパクスオトマニカは1600m通過時点で2番手以下を10馬身ほど引き離していました。
パクスオトマニカの1600mの通過タイムは1:38.0です。2番手のホウオウビスケッツの通過タイムは目算で1:40.5ぐらいで通過していそうです。
オークスの1600mの通過タイムは1:36.0です。パクスオトマニカもだいぶスローペースですが、2番手以下はかなりのスローペースです。

オークスのペースは全く緩むことがなかったのに、これを上がり11.9-11.6-11.5の加速ラップでまとめたリバティアイランドはかなりの能力の持ち主なのは言うまでもないですね。
またラヴェルを除く先行した3頭がシンガリからの3頭を占めていることからも、先行勢にはきついレースとなっていますが、レースレベルが高くした功労者でもあります。

ダービーですが、2200mの通過までパクスオトマニカがほぼ先頭で通過しています。そこから離れた2番手で追走したホウオウビスケッツとシーズンリッチ粘り込みを図るところにようやくタスティエーラ、ソールオリエンスが突っ込んで来て、ベラジオオペラとハーツコンチェルトがその2頭に食い下がり、4頭が同タイムで雪崩込んだところがゴールでした。

勝ちタイムは2:25.2は、オークスのリバティアイランドの2.23.1よりも2秒以上遅く、2着のハーパーよりも1秒遅いです。展開が全く違うレースをタイムだけで比較するのは乱暴な話なのはわかっています。
2番手追走の16番人気ホウオウビスケッツが0.2秒差の6着、3番手追走の14番人気シーズンリッチが0.4秒差の7着に粘り込んでおり、4番手と6番手の馬が1/2着になっていることからもスローペースの前残りです。
4頭が一線での叩き合いになっている熱いレースはその実あまり褒められないレベルのレースになっていると見えます。

ソールオリエンス/鞍上の過信とトラウマ

横山武史騎手は、どういう形でもこの馬なら勝てると思っていたのかもしれません。皐月賞とは打って変わり、道中6番手でレースを進めました。ペースがあまりに緩いのは分かっていたと思いますが、直線残り400mを切っても積極的に進路を取りに行きませんでした。
先週のリバティアイランドとの大きな違いはここで、川田騎手が4コーナーを過ぎ直線に入る頃にはリバティアイランドの前がクリアな状態になるよう馬を運んで行っています。その後は軽く促して加速をつけながら先行勢に取り付き、残り400mから一気に突き抜けていきました。

ソールオリエンスは残り600mからハーツコンチェルトに外から被せられているところはありますが、そこから直線に入ってもタスティエーラのやや後ろの位置で窮屈なレースをしています。
「内に倒れるようなしぐさ」「古馬になってからの馬」「スローペースで引っ張った分切れがそがれた」まではいいですが、「運が無かった」というコメントはいただけない。

横山武史騎手には2年前の苦い思い出がよぎってしまったところがあると見ます。
早め抜け出したところをシャフリヤールにハナ差で差し切られてしまったこと、皐月賞であれだけの差し脚を使った馬が鞍下にいたこと、これが組み合わさって追い出しが遅れてしまったことが勝敗を分けたように思います。

500mあたりから追い出しを開始したベラジオオペラにも先行されながら、ゴール寸前ではそれを捕まえ先頭を行くタスティエーラにも届きそうになっていたことからも、過去のダービー馬と同じように前がクリアなところに持ち出し、自分のタイミングで追い出しが出来ていたなら違った結果があったはずです。エフフォーリアの時のように自分の形で思い切ったレースをすることが横山武史騎手の持ち味だと思うのですが、今日のダービーは頭でっかちになってしまってむざむざと負けるような競馬をした、というのが今回の結果になった全てだと思います。

タスティエーラ/全力を尽くしてダービー馬に

それに対しケチのつくことのない競馬をしたのがタスティエーラです。共同通信杯→弥生賞→皐月賞→ダービーというローテーションはなかなかきつかったと思いますが、ダービーにきっちり仕上げてきた陣営の努力の賜物である、というのがまずひとつ。
皐月賞でもダービーでも自分のストロングポイントをそのまま出すがことが出来たことも大きいですね。テン乗りが60年以上勝っていないというジンクスを打ち破ったレーン騎手も見事でした。馬の力を発揮させることだけに集中していたところが、ソールオリエンスの追走を退けて戴冠するに原動力になったはずです。ただ、今後どうかというと皐月賞もダービーも展開に恵まれていたところが多分にありそうです。
父サトノクラウンも良くなったのは古馬になってからですから、今後の成長に期待したいです。

まとめ

思い出されるのは2019年のダービーです。この年はリオンリオンがかなりのハイペースで逃げて2番手追走のロジャーバローズが離れた2番手でレースを進めて、先頭の馬が垂れていくところを交わしてそのまま押し切りました。ドゥラエレーデが落馬しなければパクスオトマニカとホウオウビスケッツの間の離れた2番手にいたのでは無いかと思います。ひょっとしたらパクスオトマニカと合わせて逃げるような形になっていたかもしれません。
今日のようなペースであれば、ドゥラエレーデなら逃げ切りまたは2番手から押し切りもあったのではないかと思ってならないです。そうなっていたら三連複が取れてたかもしれないだけにあの落馬は残念でした。

結局のところそういう妄想を入れ込む余地があるようなレースをソールオリエンスにはして欲しくなかったです。鞍上がソールオリエンスのキャリアに傷をつけた罪はなかなかに重いな、と思っています。

またスキルヴィングが悲しい結果になったことも非常に残念なことでした。

今年は例年とは異なることが起きた、という意味で記憶に残る第90回の節目となるダービーだったのかな、と思います。

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