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美術について

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記事一覧

須賀敦子が歩いた街 5.

続・フィレンツェ『レー二街の家』という須賀敦子のエッセイは、東京に帰って15年経った頃、彼女が頑張ってきた自分自身をねぎらう意味もこめてフィレンツェで休暇を過ごすことを思い立ったことから始まります。そこで彼女はかつてミラノに住んでいた頃の知人とばったり出くわし、話の筋はそちらに流れていくのですが、それでも時折、このエッセイの合間合間にフィレンツェの街の情景が描かれます。 たとえば、こんなふうに書かれている箇所があります。ここには通りの名前は一切出てきませんが、ここがどこのこ

スイス紀行 2.

Guarda『ウルスリの鈴(Schellen-Ursli)』という絵本を知っていますか。私が幼稚園の頃、繰り返し読んだ本です(今でも岩波書店がこの絵本を出版し続けています)。そして、この物語の舞台となった村が、Guarda(グアルダ)です。 実に20年ぶりにこの村を訪れました。列車が駅に停車すると、目の前にマイクロバスが停まっていることも、このマイクロバスに乗り込み急なヘアピンカーブを一気に約300m登ると山の斜面に張り付くように美しい家が並んでいることも、村の背後の急斜面

スイス紀行 5.

St. Moritz (Segantini Museum)ジョバンニ・セガンティーニはイタリア人(厳密に言えば彼はイタリア北部の生まれですが無国籍でした)でスイス山岳地帯の風景を数多く描いた画家です。絵画というと、私はブリューゲルやヒエロニムス・ボスなど北方ルネサンス期の画家を偏愛しているのですが、19世紀を生きたセガンティーニはその唯一の例外です。私は20代の頃からこの画家の絵が好きで、20年前にスイス東南端のエンガディン地方まで遥々旅した理由の一つは、サン・モリッツにある

スイス紀行 7.

St. Moritz (Museum Engiadinais)エンガディン滞在最終日は一日中雨でした。翌朝にはこの場所を去らなければなりません。天気が良い日なら迷わず山を歩くのですが、この雨という機会を利用してサン・モリッツにあるエンガディン博物館(郷土博物館)を訪れることにしました。この博物館の創設は20世紀初頭ですが、2015年から2016年にかけて大規模改修が施された、まだ真新しい雰囲気が漂う博物館です。建物はこの地方の伝統的様式で建てられた100年前のものですが、内部

Josef Sudekのアトリエ

写真に興味を持っている方なら、一度はその名前を聞いたことがあるに違いないチェコの写真家がいます。その名はJosef Sudek。 彼がかつて住んでいた住居と、アトリエとして使われていた小屋は修復され、現在、それぞれ小さな写真美術館として公開されています。今回の旅ではそこへ行ってきました。住居(現・ギャラリー)へ行った時は開放値4.5という暗いレンズが搭載されたFlexaretを持っていたため、暗い屋内の写真を撮ることはできませんでしたが、窓が大きなアトリエはLeica M2

Vivian MaierとRolleiflex

その重さが次第に苦痛になり、ここ3年ほど出動機会が激減していたRolleiflex。リュックサックに入れて持ち歩くことを思いついたことをきっかけに、去年後半あたりから再びRolleiflex熱が蘇ってきました。…となると、見たくなる写真集はVivian Maierの写真。写真集を見ながら、「そういえばかつて彼女について書いた記事をブログに投稿したことがあるなあ…」と思い出し、この記事をnoteに転載することにしました。パヴィアというイタリア北部の都市で、偶然出会したVivia

Summicron 35mm F2

我が家にSummicron 35mm F2がやって来てちょうど1週間経った今週木曜日、MMK(Museum für Moderne Kunst)へ行き、このレンズを使用して写真を撮ってきました。 この第1世代のSummicron 35mmは、とても人気のあるレンズだそうです。そのレンズ構成から「8枚玉」とも呼ばれています。製造本数がさほど少ないわけではないのに相場がけっこう高いのは、その絶大な人気を反映しているからに違いありません。このレンズを買った中古カメラ店のスタッフも