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【KAORIUM JOURNAL #02】「みんながアーティストの時代」香りを言語化することによって高まる感受性と表現力


「香りと言葉」が導く超感覚を追求する KAORIUM JOURNAL。セントマティック代表 栗栖 俊治が、香り × 言葉がもたらす未来について様々なスペシャリストと対談しその様子をお届けします。
※#02はオンラインによる対談となります。

レビューや口コミ、またレコメンデーションにより、私たちの選択はとても便利なものになりました。しかし、他の力を借りて選んだものが、本当に心から満足するものに結びついているのでしょうか?論理や理性的な市場が限界と言われ、ビジネスマンにもアートの力のような創造性が必須と謳われています。それを培うためには、心から腹落ちした感覚や直感力、本当に自分が好きなものを選び取れるような感性を磨くことが求められています。今回の対談では、KAORIUM(カオリウム)体験によって、香りと言葉を結びつけることで自分の感性を新たに認知したり、さらにアップデートさせることで起こる社会の行動変容について。また、そんな香りと言葉が持つ力や効果や、またアートを学ぶことにも通じるKAORIUMの可能性について「生きている人はみんなアーティスト」と見解するデザイナーやプロデューサー、コンサルタントなど幅広い分野で活躍するアーティスト・KiNG との対談から掘り下げていきます。

「KAORIUM(カオリウム)」とは


五感の中でも最も未知な領域であり、新たな発見や市場創出が期待されている「嗅覚」。そのポテンシャルを追求するため、「香り」と「言葉」を紐づけ相互に変換するAI型システム「KAORIUM(カオリウム)」が開発されました。香りから言葉を連想し、言葉から香りを想像することは、脳の活性化に繋がるだけでなく、私たちのまだ見ぬ感性に気づかせてくれます。
そんなKAORIUM体験は、感性教育、飲食体験、購買体験など様々な分野に新しいビジネスチャンスを生み、そして人々の感受性に働きかけ、日々をより豊かなものにする可能性があります。

「香りで通す」―― KAORIUMが開ける感性の箱

栗栖 KAORIUMのプロトタイプが出来上がってきて、使ってみるとすごい変な面白い感覚があリ、果たしてこれをどう事業化したらいんだろうと考えていたんです。そこで感性を高めていく教育の方面や、感性が研ぎ澄まされているアートやエンタメ方面の方々に体験してもらいたいなって思っていて、その時にKiNGさんをご紹介いただいたのが出会いでした。

KiNG KAORIUMは、すごく楽しい体験でした。幼少期からずっと大事にしていた感覚で、「いつか役に立つかも」と自分の中にしまっていた箱の鍵が開いた感覚がありました。それは自分の中で繊細な部分だったので、普段はなかなか社会生活では開けない場所なんで(笑)。

栗栖 後日KiNG さんとフォーブスジャパン 副編集長の谷本さんと3人でお話しした時、KAORIUMがもたらす体験について「香りで通す」という表現をいただいたのが印象的です。
今までは、香りを嗅いでも「好きか嫌いか」「良いか臭いか」だけで終わってしまっていました。しかしKAORIUMによる体験は、言葉と紐づけるという行為によって、香りが鼻から入ってきた途端に自分の中にある感性の引き出しのようなものへと繋がっていく、スッと突き抜けていくような感覚だったのかなと。

KiNG 私は彫刻をやっているので、質感のあるものを手で感じたり、視覚的にも常にいろんなものを見ていて、様々な感覚を毎回感じすぎるととても忙しくなっちゃうので、感性の部分は普段かなりオフにしてるんです。だけど香りに対して感じた何かを、言葉を通して自分の中で研ぎ澄ました時に、ずっと培っていた感性にすごくいい形でスイッチが入ったというか、自然なかたちで、有無を言わさず「通った」感覚があったんです。

栗栖 なるほど、それで「香りで通す」という表現だったんですね。

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これからの社会に必要な「腹落ちした感覚」とは?

栗栖 KAORIUMは、言葉をたくさん出していて、もちろん無作為に出しているわけではないんですが、体験者に「押し付けない」ということには気をつけているんです。その人にとって選びやすく、自然と気づきやすくするところを意識しています。その中でKiNG さんに教えていただいたコグニティブダイバーシティという多様な考え方を受け入れる認知的多様性の考え方がとても大事だと思っていて、誰かに強制されるのではなく「自分はどう感じられたか」、そして自分以外の人に対しても「そういう感じ方あってもいいじゃん」と認め合える価値観をKAORIUMを通して発信できたらなとも思っているんです。

KiNG 同意です。たとえばSNS上でも皆さんそれぞれの考えを元に発信していますが、見ている景色や立場がそれぞれ違うだけで、どっちが合ってる、どっちが間違ってるとかではない。だからこそ、発信する側も受け取る側も、自分なりの腹落ちした感覚が大事。腹落ちするためには、自分が感じた様々な感覚を繊細な言葉で表現していくスキルの訓練が必要だと思うんですね。KAORIUMの香りを言語化する体験は、まさに些細なものの中にある感覚のレイヤーをしっかり言葉に訳すことで自分なりの腹落ちにつながります。

栗栖 そうですね。誰かが決めた社会的な価値観みたいなものに縛られる時ってプレッシャーであったりとか自分がいいと思う価値を押し殺したり、マヒさせなきゃいけないことがある。
自分自身の価値観を模索しながら、いいって思うことを増やしてアライメントしていくことが心の豊かさにつながるんじゃないかな。

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KiNG 例えばディズニーランドでも提供されたアトラクションに乗ることだけが楽しい訳じゃない。景色や食事であったり、自分だからこその楽しむ視点が大切。誰かと比べるものではなく、自分にとって気持ちいいという感覚は何か?そんな自分の腹落ちが今の日本社会にかけていると思いますし、今後必要なスキルだと思います。「通す」という気持ちいい感覚は、一つでも自分が持っていると何かをキュレーションする際に重宝します。部屋の家具などでも腹落ちしていないものに囲まれているとすごくストレスですしね。

栗栖 まさに自分の取扱説明書ですね。それを持っているか持っていないか。例えば、モノを買うときに、機能的価値や利用シーンが合理的でも、自分が直感的に受け入れないものは受け入れないし買わないですよね。選ぶ、買うって潜在的にそこなんじゃないですかね。

香りと言葉による「タイムマシン効果」がもたらす楽しさとは

栗栖 では香りと言葉は人間にどのような影響があるのか?同じ香りでも人それぞれ感じ方が違いますよね。理由が二つあって、一つめはDNAレベルで嗅覚受容体が人それぞれで違って、感じられる香りとそうでない香りがある。そして二つめは個人の人生経験を通して作られた記憶に基づいて香りが紐づいているということです。また、言葉を意識して香りを嗅ぐと右脳と左脳、さらに記憶をたどる大脳皮質など脳全体を使っているので、脳の活性化に非常に関わってくる。

KiNG 香りによって感じたことを研ぎ澄まし、言語化し、さらに言語から香りを想像するということを繰り返すことで、より豊かな感性に辿り着くんですね。

栗栖 また、言葉って人の意識を支配してる部分があると思います。感じた何かを細分化せずに一つの言葉にしてしまうのは、結局その感覚の粒度が粗い。例えば何かしらの違和感を「最悪」という一言で済ませたら、全てが「最悪」になってしまう。その違和感の中には、「最悪」以外の感情も含まれているはず。ちゃんと細分化していけば、感じ方のコントロールができて、自分自身で対処できるようになる。

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KiNG そうなんですよね。適切に言葉を言いあてたという成功体験は、箱のような認知の仕組みを作れているということ。その箱があると、とある言葉を聞いたり、とある香りを嗅ぐと、あの時代・あの時間・あの空間に戻れる――それはもはやタイムマシンですよね。

栗栖 そうですね、香りから言葉を紐づけていくことで、タイムマシンになりうる箱がたくさん持てれば、感じ方の引き出しが増えていくと思います。それをとても期待していて、例えば、身近にある香水やフレグランスでもいいし、ワインや日本酒とかでも、「好き、嫌い、美味しい、まずい」の言葉だけじゃなくて、その裏にあるもうちょっと解像度のあるレイヤリングされた部分の言葉を意識してもらうことで、より選び方や楽しみ方に新しいゲームチェンジが起こせるような体験を、KAORIUMで醸成していきたいと思っています。

KiNG 言葉に対する認知や意識が変わることで、家族やいろんな人たちとより会話を楽しめるようになるなどの行動変容を起こすことが、これからはすごく大事ですね。

栗栖 これおいしいね、もよいのですが、そこからさらに気の利いた一言まで言える表現力と感受性が高まると、コミュニケーションをもっと楽しめそうですよね。

「香りがわかる喜び」は、自分の才能に気づくような自転車に乗れた時の感覚と同じ

栗栖 実際に香りと言葉を通して脳が活性化された子供たちの感性に非常に驚かされたんです。3月に子供向けに「香りをもとにオリジナルの物語をつくる」というオンライン講座をしたのですが、「イタリアにある隠れ家レストラン」等、詩人のような情景が湧くような言葉が沢山出てきたんです (講座レポート参考: https://scentmatic.co.jp/news/20200430 )。反響もすごく、今後オンラインだけでなく色んな所で社会実装へ向けて計画中なんです。

KiNG すごく可能性がありますね。皆さんが自分の中の秘めたる才能や感受性に気づくっていうのはすごい事ですよね。それに気づいた途端、見える世界や聞こえる世界や香る世界、全てが変わると思うので。まさに自転車に乗れるようになるのに近いかもしれません。一度乗れた途端、スイスイ乗れるじゃないですか、それまであんなに乗れなかったのに。

栗栖 確かに、全身の神経や感覚が繋がる瞬間ですよね。

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KiNG 一旦乗れるようになったら、乗っていない期間があってもすぐに乗れるじゃないですか。嗅覚と言語化が繋がる瞬間、それこそまさに「通る」とたとえたように、一度「通った」経験があれば、スイッチをオフにしたとしても、きっとすぐに繋がりやすくなりますよね。さらには「この香りがわかるように成熟したいな」というのが一つ目標になるというのも良いですよね。今は分からないある香りの「良さ」も、数年後には分かるようになるかもしれない。そういった「香りがわかる喜び」も、歳を重ねたり、成熟していく楽しみの一つになるかもしれないですね。

栗栖 KAORIUMを通して、そんな豊かな社会づくりができたら、とても素晴らしいですね。

香りと言葉の解像度を追求した先――「みんなアーティストの時代へ」

KiNG 嗅覚って感受性に近いところじゃないですか、五感の中でもよりダイレクトにくるところ。まさに直感的なところなのでアートにすごく近い。アートを学ぶ、感性を磨くというのは、香りを言語化するということに非常に似ていますね。

栗栖 おもしろいですね。少し矛盾するかもしれないのですが、言葉にできないものも大事だと思うんです。分かるところまで分かったその先は、自分のモワッとよくわからないこと自体を、そもそも楽しめるようになるんじゃないかな。まさにそれがアートや、感性を磨くことかと。

KiNG そう思います。だから日本人はオノマトペを大量に作ったと思うんです。雨の音でも、ザーザー、サラサラ、パラパラ、いろんな表現がある。言語化しようとすればするほど「言語化できない存在」に気付く。そんな言葉を超えた壮大なエネルギーや存在に自分が気づき、それを見ないふりせずに認めていく作業をするようになってから感性が豊かになった気がします。
私がここ数年行き着いているのは、思考や認知自体がアートであるという考え。「生きている人はみんなアーティスト」。アートの民主化ではないですけど、アートは特別な誰かだけのものではありません。日常の些細な何かのその美しさや意味、それこそ言葉にできないものに対し、前触れを感じたりとか、違和感を抱くという感受性自体がアートだと思います。私自身にとっては、それを人々に広めるのがアートの一つ。今のコロナの状況は人類史上なかなかないことではあるけれど、そんな状況下でも家にいながら自分が書いたもの、自分が気付いたこと、パッと目にした何かを美しく感じたこと、それら全てがアートと繋がっていると思います。

栗栖 日々あるもの、身近なところにあるものによってその感受性を高められることが、むしろ豊かになるという事ですよね。美術館に行くといろんな絵があって、素人だと単純に「すごいな」という感想で終わってしまう。見た後に解説を読むと「この作品にはこういう意味合いがあって、だからこういう表現なんだ」とわかるんですけど、それってやっぱり知識がないと難しいなって。逆に香りってそういう知識がなくても自分の記憶や感じ方に紐づいていて、そこを内省するからむしろ勉強しなくても自分自身の感性が高めることができる。

KiNG 非常に差別がなく、初心者や上級者というのがないですよね。ただひたすら自分の感覚を研ぎ澄ます、自分の中との対話というか。人との比較が全くないところがすごく好きです。

栗栖 先ほど話した多様性を認め合うことにもつながってくる話なのですが、KAORIUMを複数人でやるとすごく仲良くなるんです。知らない人同士でやっていてもすごく仲良くなる。なんでだろうと思った時に、「人との差別や比較がない」ということに繋がっていて。香りの感じ方は基礎的な感覚に紐づいているから、それに対してどう感じたかを見下すことはまずない。心理的安全性を確保された状態なので、お互いの内面をさらけ出しやすく、その人がどうしてそう感じたのかも「そういうことがあったんですね」と、すぐ仲良くなれるんです。

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「自分で好きなものをちゃんと見つけられる社会」そしてKAORIUMのさらなる可能性へ

栗栖 自分が納得いくものを選べるような体験価値のあるKAORIUMを作ったのは、僕の昔からの違和感にも紐づいている部分があるように思っています。例えば流行っている音楽であっても、「みんなが良いっていうから良い」と思えないことが多かったんです。本当に自分が欲しいもの、自分がいいと思うものにたどり着きにくいというのがあった。自分の感じたことを伝えて理解してくれる存在もいないし、自分が感じたことを商品に紐づけてくれる存在もいないじゃんって。

KiNG 同じくですね。私もある時それに気づいて、人がいいっていうものが自分にあまりハマらなかったタイプで、ご覧の通り(笑)。ただ、アフターコロナでは、本来守らないといけない産業とか人の営みがあるってことを痛いほどみんな気づき始めて、行動変容が起きるきっかけになったと思います。栗栖さんの考えは、時代の先を読んでいたと言うか、早かったんでしょうね。

栗栖 例えば最近だと、在宅ワークが増えたことによってコーヒーの消費量が増えたのですが、コーヒー豆を買うためにAMAZONにアクセスしたとき、お気に入りのコーヒー豆の銘柄が売り切れていて、それ以外のコーヒーが自分の好みに合うかどうかが全く分からなかったんですよ。そういう時、自分がどのように苦みや酸味を感じていて、それにあっているのはこれだと導いてくれる存在って必要だなって。
KAORIUMは、今は「香り」を軸にしていますが、その一方で、より自分の欲しいもの、思考、感じ方などを大事にしながら、そういう価値観に合致したものに出会える世界を作っていきたい、とすごく思っています。

KiNG 香りは一つのキーであってその先にある様々な認知について、意識の革命というか、無限の可能性があると思います。今すごい進化が起きていて、通信量やデバイスの充実など5Gのタイミングで足並みをそろえ5年10年で徐々に起こすはずだったものが、今回の緊急事態宣言により強制的に進化を促されている。KAORIUMがこの数年粛々と準備して来てローンチしたことが、今の時代と絶妙にマッチングしてるなって思います。

栗栖 そうですね。今までは視覚だとか聴覚だけで瞬間的に考えていたり反射的に何か反応していたのが時間的な余裕ができたことによって、自分の中で様々な感覚をより噛み砕きやすい状況にはなっているかなと思いますね。香りが情報になるっていう考え方も一つあるんですよね。例えばサメが血の匂いを感じる以上に人間は雨の匂いを感じられる、という記事を先日見たのですが、過去のセントマティックチーム内でのブレストで出てきた案では、オフィスにいると雨が降っているかわからないから、帰る時に廊下とかで雨の匂いをさせてくれたら傘忘れずに出られるよね、とか。

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KiNG それってなんか人に情緒を与える感じもしますよね。KAORIUMを通して香りを言葉にする作業をしている時に人類史上に残るとてもつもなく面白い発見が生まれるかもしれないですね。もはや「言語は香りの一部」とか「言語は嗅覚の道具」そんな定義でいろんな分野の人達と丁寧な議論をしていくといいかもしれません。

栗栖 すごい。確かにそもそも人間の五感が先にあって、そのあとにきたのが言葉だっていうのは間違いないはずであって、そのためのツールという視点はありますね。言語化するところまではできているんだけど、今後それをよりもっと新しい気づきに拡張できるような方々にぜひアドバイスしてほしいなって思っています。

プロフィール

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KiNG
アーティスト / デザイナー / プロデューサー
コンサルタント / エバンジェリスト / 自由研究家

多摩美術大学前期博士課程(美術研究科・彫刻)修了。
在学中より、国内外の企業、媒体、作品、ミュージシャン、俳優等に向け、デザイン、アート、コスチューム等を提供。制作した衣装は、紅白歌合戦、FNS歌謡祭、レコード大賞、世界陸上の他、2017年に台湾で行われた世大運開幕式など実績多数。
自身のカスタムブランド”KiNG”は、国内外で取り扱い中。中国・天津、台湾・高雄 に店舗を構える。又、映画プロデューサーや、企業の経営戦略アドバイザーも務める。
その他、講演会出演やオンライントークショー”Kundalini TV”主宰するなど幅広く活躍する。

オフィシャルweb: https://www.kingtokyo.com/
Instagram: https://instagram.com/KINGTOKYOOO



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栗栖 俊治
SCENTMATIC株式会社 代表取締役

慶応義塾大学大学院を卒業後、NTTドコモにて10年間、携帯電話やスマートフォン向け新サービス・新機能の企画開発に従事し、iコンシェル、しゃべってコンシェル、音声認識機能、GPS機能等のプロジェクトリーダーを担当。
「最高のUXづくり」を徹底して目指した「しゃべってコンシェル」ではグッドデザイン賞ベスト100・未来づくりデザイン賞を受賞。
2015年より3年間、NTTドコモ・ベンチャーズ シリコンバレー支店へ出向。数々のシリコンバレースタートアップを発掘し、NTTドコモ本社事業部門とスタートアップとの協業実現や出資に成功。
2018年、日本へ帰国。2019年11月 SCENTMATIC株式会社を立ち上げ、現在に至る。

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