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知らない女の人の膝枕で目覚めた日の話

21歳だったと思う。

僕は知らない人の車のなかで
知らない女の人に膝枕された状態で目を覚ました。

その時僕は岐阜から出てきたばっかりで
映画の事務所に入って
演劇の勉強をしながら日々を過ごしていた。

まだ本当に右も左もわからなくて
毎日怒られてるんだけど
何を怒られてるのかわからない。

その日は映画の打上げに参加していた。

映画の打上げでは
沢山の人にお酒を注いで回っていた。
席を移るごとに
「飲め」と言われるのだけど
とにかく右も左もわからないから
言われた通りにする。
殆ど生まれてはじめてのビールを

立て続けに7杯一気飲みした。

いまの僕を知る人なら
これがどういう意味かわかってもらえると思うが
僕はお酒がほとんど飲めない。

お酒そのものは大好きだけれども、
コップに半分のビールで目が回る。

そんな僕がなぜ
ビールを一気飲みしまくったのか。

自分がお酒に弱いって知らなかったのだ。

そして監督を見送ったところまでは覚えている。

「おつかれさまでした!」
といってお辞儀をした。

その次の瞬間

僕は知らない女の人の膝枕で目が覚めた。
おそらく数時間は経っていたのだろう。

「あ、直人おきたよ」

知らない女の人は僕の名前を知っている。
誰だ?

整理が追いつかない。
この人は誰だ。ここはどこだ。

車は走り続けている。

走っている?

僕はどこかに連れて行かれている。

うん?
これは結構怖い状況では????

「とりあえず吐かなくて偉い」

僕は吐かなかったらしい。
偉いらしい。

ところで君は誰だ。

一応実名は避けておくが
その人はサッちゃんとしよう。

由緒正しい地元の料亭の娘さんで
街の人から好かれている
その店の、どころか街の看板娘みたいなひとだ。

信号で車が止まると
「あ、サッちゃんだ」
なんてそこらへんの人に声をかけられている。

後日知ることになるが
サッちゃんは子供の頃から眉毛がないので
アートメイクをしている。
刺青みたいなやつで眉毛を入れている。

サッちゃんは歌がありえないほど上手い。
でも歌うのはあんまり好きではないみたい。

こんな漫画の中のキャラクターみたいなのが
実在するのか。

サッちゃんのことをまだ知らない僕は
「とにかくこの人は誰で俺はどこに連れて行かれているんだ」
というまぁまぁの恐怖に緊張していた。

「お茶飲む?大分飲んでたから、
 お茶飲んだ方がいいよ。」

はあ…

「ねえ君さあ、なんでここにいるの?」


俺が聞きたいわ


「他の人とちょっと違うよねぇ
 映画好きなの?」

あ、そういう意味か。

僕は別に映画は好きではなかった。

舞台演劇を学ぼうと思って
適当に受けたオーディションで
合格したから事務所に入ったのだ。

この事務所も今思うと
オーディションを受ければ合格して
レッスン代を払い続ける類のものだったように思う。
その事務所に入ったら
舞台演劇のことは全くやらなくて
映画の小間使いをさせられていたのだ。

「舞台とか向いてそうだけど」

舞台しにきたはずなんよ…

結局僕が乗っていた車は
先輩の車で、
そのあとの記憶はもうないのけど
いまも平和に生きてるから

多分大丈夫だったんだと思う。


それからサッちゃんとは
つかず離れずな距離でゆっくり仲良くした。

木こりのじいさんとか紹介してもらったりした。

全然連絡しない時も含めて
サッちゃんとの交友はもうすぐ20年になる。

そして


近所の神主がいなくなった神社で
縁日を作ったりしてるサッちゃんの真似をして

僕はしんえんを作るようになった。


ご縁てのは本当にわからないものですね…

20年単位で見た場合
やりたいくない事をやって
飲んだことないものを飲んで倒れた結果

僕はしんえんを作ることになりました。

短いスパンで見たら
酷い目に遭った
だけだった事が、長い目で見たら
自分の人生を作っていた、という話。


僕なりの塞翁が馬でした。

いま思い通りにいかない人へ
それがどこでどう転がるか分かりませんように。


しんろくでした。

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