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「未来社会のデザインと社会的共通資本」広井良典教授

気候変動や生態系の喪失、経済格差や分断の広がりなど、現代の社会が直面する様々な課題を解決するにあたり、「社会的共通資本」の考えは多くの手がかりを提供してくれます。そうした社会的共通資本のコンセプトを生かしつつ、私たちが実現していくべき未来社会のデザインあるいはビジョンを、大学の研究者と様々な社会的アクターが連携して考え構想していくことが「未来社会のデザインと社会的共通資本」の趣旨です。

第1回目は社会的共通資本と未来寄附研究部門の部門長、京都大学人と社会の未来研究院広井良典教授が担当となります。

「社会的共通資本」という考え方を、社会課題を解決するための手掛かりにする

経済学者・宇沢弘文氏(1928〜2014年)が提唱した概念「社会的共通資本」は、あらゆる人が経済生活を営み、優れた文化と魅力ある社会の安定的な維持を可能にするために整えた自然環境と社会的装置を、社会共通の財産とする考え方です。

一方で絶対的に定められた定義があるわけではなく、さまざまな垣根を超えた展開につながることも考えられます。現代社会における課題を解決し、持続可能な福祉国家を実現するために活かしたいーー。今回は、公共政策と科学哲学を専門とされる、広井良典さんにお話を伺います。政策研究や人間の原理的な考察、そして定常型社会の構想など、幅広く研究される先生は話題も幅広く、充実したインタビュー時間となりました。

広井良典 京都大学人と社会の未来研究院
専攻は公共政策及び科学哲学。環境・福祉・経済が調和した「定常型社会=持続可能な福祉社会」を提唱。『ポスト資本主義』『人口減少社会のデザイン』『無と意識の人類史』など著書多数。

まずは広井先生の関心の変遷と、社会的共通資本とのつながりについて教えていただけますか。

私の問題意識の出発点は中学2年くらいのときですね。思春期に、社会のあり方に大いに疑問を感じるようになりました。多くの人もきっと、受験に直面するときなどは大なり小なり似たようなことを考えるのかもしれませんが、「どういう人生を歩んでいくのか」、あるいは「このままエスカレーターに乗って歩むような人生でいいのか」、といったことでした。この時、私の中では大きく2つの問いが強くなりました。

1つは価値判断について、これは良いとか悪いとか、価値判断における最終的なよりどころや基準は何なのだろうか、という問いです。人生の選択に限らず、社会的な善悪とか、価値判断の根本的な基準はどこに求められるのか。
それからもう一つは、そうした問いを考えていると、そもそも自分がこの世界を認識し、生きているというのはどういうことなのか、というより根本的な問いに行き着きます。

そんなことを考えながらとりあえず大学に入りました。法学部進学コースでしたけど、哲学的なことを年がら年中考えていましたので、最終的には3年に進学する時に、科学史、科学哲学というコースに移籍し、文系と理系の中間のような、自然科学的な知見も踏まえて根本的なことを学ぶことにしました。

その頃に影響を受けたのは、廣松渉(ひろまつわたる)という、当時はかなりの影響力を持っていた哲学者でした。廣松渉はマルクス系の思想家という面と、同時に、もともと物理志望だったこともあり、最近よく言われる文理融合的なことに近い研究を行っていました。物理とか自然科学的な知見を取り入れた上で、人間や社会の意味について論じていたのです。著作も多く、『世界の共同主観的存在構造』や『事的世界観への前哨』など、タイトルは堅苦しいのですが内容は非常に響くものがありました。

宇沢弘文さんの議論とは直接はつながりませんが、内容的には様々な関連性があると思います。その後私は結局、3年生の終わり頃に、時間論という、当時の私の問いが全て解決するようなある種の理論的枠組みと出会って、ひとつの結論に到達したんです。

※記事全文は以下よりご覧いただけます。


社会的共通資本と未来寄附研究部門の取り組みをご支援いただく窓口として「人と社会の未来研究院基金」を設けています。
特定の一民間企業からの寄附で運営されることが多い通例の寄附講座とは異なり、様々なセクターから参加をいただくことを目指しております。https://sccf.ifohs.kyoto-u.ac.jp/fund/

また、社会的共通資本がなぜ今必要なのか、Beyond Capitalismとして今後どのように社会的共通資本と未来を拡張していくのか、企業に求めることやアカデミアとしてのあり方も再考する各種イベントを実施しております。
https://sccf-kyoto.peatix.com

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