第13回「白詰草話 -Episode of the Clovers-」

ニコニコ動画が死んでるらしい。
この記事を後悔する頃にはみんな周知だろうし、もしかしたら復旧しているかもしれないけれど。
ニコニコ動画、ニコニコ生放送は2000~2010年代にバカをやってた自分たち世代にとっては最大のネット上での遊び場の一つだったし、最近も普通に見ていただけに少しだけ今は寂しい。

「昔のニコニコはむちゃくちゃだった」と言うことを老人会を自称する30かそこらの青年世代の人らが時折SNSで口にしているが、実際にむちゃくちゃだったのは事実だ。
Youtubeの動画の転載、著作権無視のCD音源を発売日にアップロード、昨夜放送されたハルヒやらきすたなんかのアニメをそのまま乗っける、エロ画像のzipまとめのパスを動画に仕込む……数え切れないほどの違法と脱法のギリギリが存在していた、まさに2000年代においてネットのジャンクヤードだったと言える。

しかし、そんな汚泥の中から咲く花もあったわけで「東方」「アイマス」「ボカロ」の御三家なんて呼ばれるものが2007年頃から叫ばれるような場所だった。

エロゲの形が、一つ変わった瞬間

それ以前の「いわゆるエロゲ」と言えば、画面に女の子のイラストがあって、テキストが画面全体に流れるかまいたちの夜形式を継承した物か、あるいは画面下部のウィンドウに3行程度表示されるのが基本だったと思う。

この主な二つのUIは確かに完成形だったと思う。
事実として、2020年代の今もほとんどのエロゲはウィンドウの下部にテキストが表示される方式がおそらく大半を占めるだろう。
この状況を打破したのが今回ダラダラと語る「白詰草話」だ。

FFDシステム」、正式名称「FLOATING FRAME DIRECTOR SYSTEM」の略称である。
これはそれ以前のエロゲにあったセリフを主にして、画像などをまるでマンガのフキダシやコマのようにして画面にカットイン、フレームイン・アウト方式で表示、移動させると言うシステムだ。
本作の開発メーカーである「Littlewitch」さんは同人作家である大槍葦人氏が立ち上げたものであり、彼自身が元々コミケなどで漫画同人誌を頒布していたことから開発されたのだと聞く。公式でも実際に「動くマンガ」と言う認識でいたようだ。

当時あまりにも画期的だったこのシステムであるが、「シルバー事件」でも見られた物ではあるが、本作はそれをよりマンガらしく、より多彩な演出方法を取る手段として、ほぼ全編に渡って使用している。
以後、Littlewitchさんのすべての作品でこのシステムは導入され、より洗練され、様々な演出技法が生み出されるが、その最初こそが本作「白詰草話」である。

もう一つの画期的と謳われた「STRAY SHEEP PROGRAM」であるが、こちらは「主人公以外の登場人物が勝手に選択肢を選ぶ」となかなか斬新なシステムであったが、こちらは内部的なフラグ管理での物語の分岐をプレイヤーに見せると言うなかなかおもしろい技法であったが、そこまで浸透しなかったシステムだ。
文章屋として、ゲーマーとしては可能性を感じるシステムではあったのだが、本作ではそれが効果的に発揮できていなかったのは今以て残念に思う。

ともあれ「FFD」によってエロゲが、アドベンチャーゲームと言うジャンルが一つ大きく変わった。
事実として、このシステムが与えた衝撃は非常に大きく、全年齢移植であるドリームキャスト版においても当時のファミ通においてシルバー殿堂入りする要因になったと言える。

Q.システムが凄いだけなの?

確かにFFDは凄かった。
クリック、ポチポチゲー、ともかつて評された物では無くなった。
だが、FFD以外の面での演出の力も実際凄かった。

本作は各エピソードがまるでアニメの1話1話のように区切られている。
それだけならまぁ、よくあるエロゲの章ごとの区切りだろう。
だが、本作はそこからして違った。
毎度「オープニングとエンディングで主題歌が流れ、アニメーションとスタッフロールが流れる」と言うとんでもない演出を仕掛けたのだ。
結果としてプレイヤーの耳には主題歌と歌詞が強烈に刷り込まれる
動くマンガ」と公式は謳っていた。
だが、その実は「アニメ」を作ろうとしていたのではないかと今思えば感じる演出だった。

アニメは、毎週見ていれば自然とその主題歌を覚える。
どんなクソなアニメだと分かっていて、1クール見続けているとイヤでもそのOPとEDが耳に残り、気づけばCDを買い求めていたり、サブスクでスマホやPCにダウンロードしている。
本作はそう言った意味では大成功であり、OP楽曲である「escape」は今でもソラで歌える自信がある。
無論、ED楽曲である「シナリオ」も脳裏に耳に焼き付いている。
それぞれの歌詞も本作のプロットにかなり沿った内容であり、各話の頭と終わりにそれぞれ流れることで本作の丁寧に隠されて見えない本質部分を描いている。

FFDの強烈なインパクトに隠れて、物語に花を添えるこうした配慮はそれ以外の面でも徹底しており「これはただのマンガみたいなエロゲではないぞ」と主張をする。
本作は、本筋のテキストや設定も、深く読み込んで考察すると、実は面白いのだ。

「経験に勝る信仰無し」

本作のシナリオは、ジャンルとして大別するならば「SF」にあたるのだろう。
遺伝子工学のスペシャリストである主人公は、23対の染色体にプラス1対を追加した24対のデザイナーズチャイルドを人工的生み出した。
そうして生まれた三体の少女が本作のヒロインたちである。
二次性徴も迎えるかどうか、そんな華奢な肉体の彼女たちは、その実「人間のようなモノ」でしかない。
幼女の外見をしているが、それがすでに成体なのか、あるいはまだ幼体なのかすら分からない異形、新しいヒト。
主人公である「津名川 宗慈」は自分の行いが本当に正しかったのかと物語の冒頭から終幕まで苦悩し続ける。

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