週末有機化学演習 第1回

大学学部~院生向けの有機化学問題を更新していきます。
休日の時間つぶしにどうぞ。
演習問題の解答は次回の演習の後半に載せています。
例) 第一回演習問題の解答→第二回演習の後半

今回のジャンルは『有機合成反応』です。

問A

ベンズアニリド誘導体に対し超原子価ヨウ素試薬を作用させると酸化的脱芳香化反応が進行しアザスピロ環化合物を与えます。Fig 1の反応について考えてみましょう。

Fig.1 アザスピロ環化合物合成反応

問1

この反応は
①超原子価ヨウ素試薬とベンズアニリド誘導体との反応
②酸化的脱芳香化
③カルボカチオンへの芳香族求電子置換反応
というステップで進行することが分かっています。この情報をもとに本反応の考えられる反応機構を示してください。

問2

出発物のベンズアニリド誘導体について置換基R1を変化させて反応を行った結果、対応するアザスピロ環生成物の収率は以下のようでした。

R1 = Me: 91%, -CH2-Ph: 85%, -OMe: 27%

すなわち、N-メトキシ体において極端な収率低下が見られました。この原因について考察してみましょう。

アミド構造はC-N結合が二重結合性をもっており、cis型かtrans型のコンフォメーションをとることができます。これはFig.1のベンズアニリド誘導体でも同様のことが言えるため、出発物のベンズアニリド誘導体にはアミドC-N結合周りでcis型とtrans型の二種類のコンフォメーションが存在すると考えられます。

問2-1

R1=-OMe, R2=-OEtの時のベンズアニリド誘導体について、cis型とtrans型二種類のコンフォメーションそれぞれの構造式を示してください。

問2-2

問1で考察した本反応の反応機構より、ベンズアニリド誘導体が問2-1で示した二種類のコンフォメーションの時どちらで反応が進行しやすいと考えられますか。理由と共に述べてください。

以上より、R1=-OMeの時はベンズアニリド誘導体が反応に有利なコンフォメーションをとれていないために収率が低下しているのではないかという考察が導けます。では次にその理由について掘り下げましょう。

問2-3

R1=-Me,-CH2-Phの場合、ベンズアニリド誘導体は問2-2で考察した反応に優位なコンフォメーションで安定していると考えられます。一方で、R1=-Hの場合はR1=-Me,-CH2-Phの場合と異なるコンフォメーションで安定しています。これらコンフォメーション選択性の理由について、立体障害の観点から考察し、説明してください。

問2-3より、R1=-OMe体はR1=-Me,-CH2-Ph体のような反応優位なコンフォメーションになっている割合が小さい、もしくは生じていないことが推察できます。すなわち、R1=-OMe体の場合は反応に優位なコンフォメーションも不利なコンフォメーションもどちらも取りうるということになります。しかし、収率の極端な低下をみるにどうもR1=-OMe体は反応に不利なコンフォメーションで安定しているように考えられます。

問2-4

最後にR1=-OMeのベンズアニリド誘導体が反応に不利なコンフォメーションで安定となる理由について、①分子の双極子モーメント、②芳香環の共役、という二つの観点から考察し、説明してください。

問B

Humulene誘導体である(-)-asteriscunolide Dの分子変換について考えてみましょう。

Fig 2. (-)-asteriscunolide D

問1

(-)-asteriscunolide Dにある二置換オレフィンAおよび三置換オレフィンBについて、それぞれE,Z配置を決定してください。

問2

(-)-asteriscunolide Dに対してメタノール溶媒中Tributylphosphineを作用させると、オレフィンAが関与する分子内 Vinylogous Morita−Baylis−Hillman反応(もしくはRauhut–Currier反応) が進行し対応する縮環化合物が得られます。本反応の反応機構と最終生成物の構造を示してください。なお、生成物の立体配置については考えなくて構いません。

問3

(-)-asteriscunolide Dに対してメタノール溶媒中Boron Trifluoride - Diethyl Ether Complex(三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル錯体) を作用させると、α,β不飽和ケトン部位へメタノールのMichael付加が進行し対応する1置換メトキシ誘導体Xが主生成物として得られました。オレフィンAとオレフィンBどちらでMichael付加が進行した生成物が主生物として得られるでしょうか、(-)-asteriscunolide Dの分子構造から推察して1置換メトキシ誘導体Xの構造とその反応選択性の理由を示してください。なお、生成物の立体配置については考えなくても構いません。

問3で得られた1置換メトキシ誘導体Xに対してアセトン溶媒中高圧水銀ランプを照射すると分子内[2+2]光環化反応が進行して、ビシクロ[2.1.1]ヘキサン骨格を有する化合物Yが得られました。その後、化合物Yのメトキシ基を除去してオレフィンを再生させることで化合物Zが得られました。

問4-1

化合物Yの構造を示してください。

問4-2

化合物Zは(-)-asteriscunolide Dの分子内[2+2]光環化反応では得られず、わざわざ問3操作によるオレフィンへのメトキシ付加と環化後のメトキシ脱離を行う必要がありました。(-)-asteriscunolide Dの化合物Zへの直接変換はなぜ進行しないか、環の剛直性の観点から考察し、説明してください。


第一回の演習は以上です。お疲れ様でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?