生きながら十代に葬られ はじめに

十代というと、人は何を思い出すだろう。友達と渡り廊下ではしゃぎながら歩いたこと、部活の試合で汗を流したこと、好きな人の影を目で追いかけていたこと。そんなことが多いような気がする。しかし、私にはそのような思い出があまりない。思い出すのはクラスでの掃除の時間に女子生徒から股間を足で蹴られたことや、担任の教師に放課後呼び出され「お前はクラスのみんなに嫌われている」と言われたこと、死にたい気持ちを堪えながら、家路をトボトボと辿ったことなどである。

そんな私でも、しばらくすると少しの友達ができて、クラスではしゃいだり、おしゃべりすることができるようになった。私はようやくクラスに馴染むことができたのだと安心した。中学を卒業するとき、卒業アルバムが配られた。一番最後のページにはメッセージを書く欄があって、みんなお互いに可愛いペンでお別れのメッセージを書きあっていた。私はウキウキしながら、みんなにメッセージをお願いした。そこに書かれたのは「ブスエリコ。元気で! 可愛い〇〇より」「ブスエリコ。ちゃんと学校いけよ」などという辛辣な言葉だった。私は卒業アルバムにメッセージを書いてくれたから、みんな友達なのだと思ったけど、彼女たちにとっては友達なんかじゃなかったのだろう。私だったら友達にブスなどとは絶対に言わない。私はブスとたくさん書かれた卒業アルバムを持って卒業した。

私には夢があった。それは大好きな絵で生計を立てることだった。子供の頃から絵を描くのが好きで、家に帰ると勉強机の上で何枚も絵を描いた。駅前の小さな画材屋さんで自分の財布とにらめっこしながら画材を選んだ。私は息をするように絵を描いた。絵を描かないと自分が死んでしまうと思ったくらいだ。学校でも絵がうまいと褒められて、展覧会にも出品してもらって何個も賞を取った。

絵を描いているときは辛い現実を忘れられた。学校でバカにされても、除け者にされても、絵の世界では私は無敵だった。将来は絶対に美大に行くのだと心に決めていたのだけれど、両親は私の進路を反対した。将来やりたいことが見つからない人もいる中、やりたいことを見つけた私は偉いと思うのだけれど、両親にとっては偉いどころか、夢ばかり見ているバカな子供と映ったようだった。

「絵なんかで食べていけるわけはない」

そう一蹴し、私は全く行きたくない大学に進むことになった。絵の道を諦めなければならなかったことは私の一生の心残りだ。

二十歳を過ぎた頃、私は引きこもりになっていた。たくさん時間があるのに、私は絵を描かなかった。それどころか、画材を押し入れの奥深くしまった。絵で私の人生はダメになったのだと思い、絵を志した自分を恥じた。

私の青春時代は真っ暗で、前を向いても後ろを向いても漆黒の闇が広がるばかりだ。

私は成人式に出ていない。成人式の日はバイトが入っていた。記録的な大雪の中、身を屈めて家路を急いでいるとき、居酒屋の前で待ち合わせをしている元クラスメイトの姿が目に入った。向こうは私に気がつかず、私は彼女の前を無言で通り過ぎた。家に帰っても誰からも連絡は来なくて、一人でビールをチビチビ飲んでいた。

大人になってからも、同窓会の便りは一度も来ていない。たまに、本当に同窓会をやっている人がいるのかと思ってしまう。もしかしたら、そんなイベントは廃れたのだろうかと考えるのだが、SNSを覗くと、元同級生たちとお酒を酌み交わす写真が出てくるので、多分、同窓会はまだ存在している。ただ、元同級生の中で私が存在していなかっただけだ。

十代は遥か遠くにあるのに、今起きていることのように胸が痛い。そのたびに、私の十代はまだ終わっていないのだと自覚する。私の心と体は生きながら十代に埋葬されている。目を閉じれば私をあざ笑う同級生の姿が目に浮かぶ。全く幸せじゃない時代、あの時代に私は復讐がしたい。あの時代を乗り越えないと私はどうやっても大人になれない。

私は今、幸せになろうとしている。幸せになることは過去の自分への一番の復讐だ。クラスに友達がいなかったけれど、大人になった今ではたくさんの友人がいる。学校だけが全てだと思ったけれど、世界は学校の外に広がっている。その世界には私のことを好きだと言ってくれる人や、面白いと言ってくれる人がいる。私は今、全速力で走っている。過去を振り捨てて、世界を広げるために髪を振り乱し走り続ける。幸せでない青春時代を送った人が、私の走る姿を見て、何かを感じてくれたらと願う。

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