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森鷗外 『二人の友』 読書会 (2021.3.12)

2021.3.12に行った森鷗外 『二人の友』 読書会の模様です。

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朗読しました。

青空文庫 森鷗外 『二人の友』

勝手な友情

中学生の土曜日は、午後部活で、給食がないので、弁当持参であった。部室がわりの木工室で弁当を食べるのだが、母親の作ってくれた弁当の見た目が悪いので中学生の頃、人前で弁当を開けるのが嫌だった。米を柔らかく炊くのでべちゃべちゃになっていて、さらにおかずの汁気が米に吸収されて、茶色くなっていることが多かった。この弁当の見た目問題は、高校時代に、米とおかずを分ける二段式の弁当箱になったことで解消した。母の弁当は、美味しかったのでが、見た目のセンスはあまりなかった。映えない弁当だった。

そんな弁当でも、美味しそうだと言ってくれる友人がいた。彼の家は飲食関係の事業をしていたので、彼の弁当は、店で買ってきたかのように綺麗だった。「美味しそうだ」というので、皮肉かと思っていたが、彼の目を見るとそうでもないらしい。中学校時代に、人に隠れて弁当食ってた頃からすれば、驚きだった。本当に優しいやつだなと思った。

君とは、サッカー部で一緒だった。私は一年生の年明けで、受験に集中するために部活を辞めた。高校から始めて、下手くそだったが、心からサッカーが好きで、練習に打ち込んだので、やめる時みんなに挨拶していて、みっともなくしゃくりあげて泣いてしまった。後で、聞けば、あまりにみっともなくしゃくりあげているので、笑っていた仲間もいた。でも君は一緒に泣いてくれた。その時も本当に優しいやつだなと思った。

それからクラス替えで、疎遠になってしまい、お互い東京の大学に通っていたが、ずっと連絡を取っていなかった。私が10年ぶりに地元に帰ってきて就職したとき、友人を介して、君と再会した。文学が好きなわけではなかった君が、僕に話題を合わせるためか、三島や大江の話をしてくれた。風の噂で文学が好きだと聞いていたらしい。その飲み会は、いわゆる合コンだった。そこで彼は、伴侶を見つけた。私も知っている女性だった。素敵な人だった。君は彼女と結婚した。

君の結婚式呼ばれたが、最初は、出席を断ろうと思った。しかし他のものに説得されて、披露宴に出ることになった。10年ぶりに高校生の頃のクラスメートに再会した。みんな立派になっていた。紆余曲折あって、地元に帰ってきた僕は、うだつも上がらず、鬱屈していて、そもそも結婚式も進んで出る気になれなかった。うわべだけ取り繕って、披露宴をやり過ごした。二次会には出ないで、そっと帰った。君の結婚式なのに申し訳なかった。結婚して、みんな変わってしまった。自分も変わった。

その後僕は、会社も辞めた。たまに会いたがってくれた、君からの電話にも出なかった。君の奥さんからもたまに電話をもらった。奥さんは、君が僕に会いたいと言っているという。同じ地元で、家業を継いで、苦労している君のことは遠くにいても痛いほどよくわかるが、私も、私の苦労があり、会えば、自己正当化をせざるを得ない状況なので、やがて、電話に出なくなった。

今日は、2021/3/12震災から10年経った。10年前の夜中のに大きな地震があった。

今やっていることは、10年前の今日、地震で死ぬかと思ったとき、一度きりの人生だから悔いのないように生きたいと思ったのがきっかけで、僕が、はじめたことだった。やっていることの意図は、君をはじめかつての仲間たちは、理解してくれているかわからない。家族だって理解していないかもしれないので、誰も理解してくれない気もする。いっそ、嫌われて、そして忘れさられたほうが、楽だとも思ってしまう。
でも、今でも、僕の気持ちを一番くんで応援してくれているのは、君だという気はしている。会わないが、僕が薄情なわけではなく、僕なりの君への友情は続いている。君が僕に優しかったことはよく頭に思い浮かべる。会えば、仲違いするかもしれないから、今はこのままでいいのではないかと思う。

勝手なこと言って申し訳ないが、もし読んでくれていたら、こういう人間なので許してほしい。

(おわり)

読書会の模様です。

https://youtu.be/THDOFKugCuw


お志有難うございます。