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浮遊

 昨日の天皇杯決勝。選手入場のとき、レッズサポーター側のゴール裏に巨大なエンブレムが浮遊していた。そしてスタンドには、おびただしい数の赤いフラッグが揺れていた。

 非常に素晴らしい光景だったし、さすが天皇杯決勝と思っていた。「それだけ」だった。僕も決勝前で緊張していたのかもしれない。ベテランのつもりなのに。

 あのエンブレムは、上部から左右にロープが広がっているから、メーン、バック両スタンドから吊り下げているのはわかる。ときどきスタジアムの上方にピッチを縦断するようにワイヤーを張ってそこに移動式のテレビカメラを設置することがあるので、それ自体は「あり得る」ことだった。

 だが、よく考えてみれば仙台側にはエンブレムが浮いていなかった。つまり、これは主催者が行っている演出ではなく、レッズサポーターがやっている応援なのだ。そのことに気づいたのは、君が代の独唱が始まる前にそのエンブレムが降りていったときだ。自分が座っている記者席の左横を見ると、サポーターが何人もロープをつかんでいる。人数が多くて、まるで地引き網のようだった。

 自分たちの本来の場所を離れて、レッズの応援のための裏方に徹している彼らがいて、あのエンブレムの浮遊があった。ただ「素晴らしい光景だな」と思っていた”だけ”の自分は、やはりテンパっていたのだろう。もっとも彼らは裏方である自分たちが注目されることなど、これっぽっちも望んでおらず、単純に「すげえ」「かっこいい」と思っていただけの、冒頭の僕のような感覚が望むところだったのだろうが。

 そして、この日レッズの応援で驚いたのは、それだけではなかった。



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