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イライラの最中、家の中にテントを張った話

新型コロナウイルスの影響で、息子の幼稚園は3月から自由登園になった。
「なるべく登園させずに」とのことで、その日から息子とわたしは、昼間は2人きりで過ごすことになった。

息子は、家で好きなことが出来るので大喜び。
電車や算数、理科など、興味のある分野について、一日中喋り倒している。
そののびのびと楽しそうな姿を見ると、「今、こうして一緒に家で過ごせることも悪くはないかもしれない」と思える。

最初はわたしも「息子の心のケアを」と考え、積極的に一緒に遊んでいた。
しかし、「いつ終わるのかがわからない不安」というのは想像以上で──。
わたしは、日に日にストレスを抱えていき、目に見えてイライラするようになってしまった。

その日も、わたしはイライラしていた。
わたしと息子はなんだかギクシャクしながら、夕方のテレビのニュース番組を眺めていた。

その時、画面に映ったのは「新型コロナウイルスの影響でキャンプが流行している」といった内容のニュースだった。

人が密集することなく、換気も十分。
子どもたちも外で楽しく気兼ねなく、体を動かすことが出来る。

そんな観点から、今、キャンプが流行しているというのだ。


「うちにもテントあったよね?」


そう言い出したのは、息子だった。

その一言を耳にした瞬間、体が飛び跳ねるように動いた。
わたしは迷うことなく、物置からテントを引っ張り出してきていた。

そして、部屋の中で、テントを広げた。

狭い部屋いっぱいに広がったテントを見て、息子は瞳をきらきらさせ、テンションは急上昇。
大はしゃぎでテントに飛び込んだ。

その日から、我が家のテント暮らしがはじまった。
昼間はおもちゃを持ち込んでテントで遊び、夜は布団を敷いてテントの中で眠った。
息子はとても楽しそうで、わたしも「家の中にテント」という非日常に、少なからずわくわくしていた。

そうだ、この感覚だ──。

いつからかわたしは「息子と一緒に楽しむ」ということを心から出来なくなっていた。
終わりの見えない自粛生活に、休校要請に、心の底から苛立っていた。

今、全くイライラしなくなった、ということはない。
でも、それでも。

何かしながら息子の話を聞き流すのではなく、
一緒に遊びながら他のことを考えているのでもなく、
本当の意味で「一緒に過ごす」ということが出来ている気がする。


「いつか、本当にキャンプしてみたいな」

ある時、息子のぽつり呟いた一言。
わたしは、大袈裟なくらいに返事をした。

「行こう! みんなで、キャンプしよう!」

室内に張られたテントは、わたしと息子の距離を縮めてくれる。
わたしの心を、余計な思考から守ってくれる。

今年の夏は、家族でキャンプにいこう。
それまでには安心して出掛けられる世の中に戻っていることを切に願う。

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