オオカミくんの変遷/『白雪とオオカミくんには騙されない♥』視聴レポ2

(以下は現在放映中の『白雪とオオカミくんには騙されない♥』11話(3/24放送)の内容に少々触れています)

 AbemaTVの恋愛リアリティーショーには、各シリーズごとに固有の設計・構成がある。『オオカミくんには騙されない♥』はもちろん、「男子の中に最低一人、絶対に恋しない『オオカミくん』が混ざっている」だ。『オオカミくん』と並び人気の高いシリーズを見てみるとこんな感じだ。

恋する♥週末ホームステイ』:遠距離(例えば北海道と東京、関西と博多)に住む女子高生/男子高生たちが毎週末だけ会うことができる。
今日、好きになりました。』:高校生たちが2泊3日だけという短い時間で恋愛をする。
恋愛ドラマな恋がしたい』:俳優たちが恋愛ドラマを撮影しながら恋をする。毎週ペアを決め、演技オーディションを経て選ばれた一組は「キス有」のショートドラマの撮影をする。
勝負の冬』:受験生の女子が大学生男子を家庭教師に勉強を教えてもらい、合格を目指しつつデートで息抜きもしたり。

 それぞれのシリーズでは、数話~10数話で完結するシーズンを重ねるごとにマイナーアップデートが加えられ、より視聴者の楽しさや期待感を増すように改善されている。そしてわたしが『オオカミくん』シリーズを興味深いと思うのは、単にこういったアップデートと言うより、もっと思想やポリシーといったレベルでの転換や変遷があるように見えるからだ。

 シーズン1『オオカミくんには騙されない♥』では、女子4人のうち3人は茶髪巻き髪のいわゆる「ギャル」的なメンバーで、顔合わせでも「ギャルとか好きですか?」と男子に聞く場面がある。人狼をモチーフにしたと語られる『オオカミくん』の設計についても、はじめは「誘惑や嘘のトラップを乗り越え」と書かれているように、騙し騙されることが主眼だ。推測になってしまうけれど、おそらく初期の意図としては、イケメンに盲目になる肉食女子が痛い目にあってしまうことをも意地悪く楽しむ的なものもあったのではないか。
 けれどシーズン2『真夏のオオカミくんには騙されない♥』では「ギャル」は2人に、そしてシーズン3『真冬のオオカミくんには騙されない♥』では0人となり、黒髪ストレート女子ばかりになってしまう。シーズン4『太陽とオオカミくんには騙されない♥』で1人「ギャル」が登場すると、コメンテーターは「やっぱギャルがいないと」と喜ぶシーンもある。失敗を楽しむ意地悪さは薄れ、ピュアな恋をストレートに応援する方向に意識はスライドしてきている。(もちろんこの、ギャル/黒髪みたいなキャラクターと役割の偏った連想を作中で押し付けることには懐疑的でないといけない)
 登場メンバーの変化と並行して、新たなルールが作られる。シーズン3からは「オオカミくん投票」と呼ばれる、視聴者が投票し最多得票の男子が途中で脱落するというシステムが加わる。ここで『オオカミくん』の思想は一度目の転換があったように思う。騙し騙されを観察して楽しむのではなく、女子の本当の恋心を守るために視聴者が「犯人あて」ゲームを戦う、という形だ。
 放映当初のコメントや視聴者の盛り上がりを見ていたわけではないのでこれもまた推測だけれど、この転換はやはり視聴者のレスポンスを受けてのものではないか。前の記事(恋リアの勝利条件と「恋愛禁止」)で書いたように、Abema恋リアを中心にトレンドは「他人の恋愛沙汰の勝ち負けを上から楽しむ」から「同世代がもがく姿に共感しつつ応援し、たとえ実らなくてもその努力を称える」に徐々にシフトしているように思える。「オオカミくん」というその努力を妨害する存在に、メンバーも視聴者も一緒になって戦い援護する。その図式のために、ルールは非常に思想的な意味合いを持って変更された。
 しかし、シーズン3および4ではむしろこの「脱落」が大きな見せ場となる。脱落が決まった男子はメンバー一人一人に別れの言葉を告げ、最後に一人だけ女子を選んで1時間の「シンデレラタイム」と呼ばれるデート時間が与えられる。ライバルの男子ですらも、この喪失の悲しみに涙を落とす(もちろん視聴者に向けては、これでもかというくらいに泣かせの演出になる)。ここで第二の転換となる。戦い抗う、あるいは生き抜くのは「オオカミくん」という存在ではなく「システム」に対してとなり、さらにはそのシステム自体が彼ら彼女らと共に物語を作る要素であるかのようになる。
 これを決定づけたのは、シーズン4で加わった「共同制作」だ。番組の期間内に、メンバー全員で巨大なアートを完成させるため、(恋愛模様と並行しながら)毎日来られる人が作業場に集まって制作をする。この「制作」にはオオカミくんは関係なく、チーム全員が力を合わせるものだ。けれどその完成の場には「脱落者」は居合わせられない。達成感と共に一抹の寂しさ、チームの欠落感がそのシーンには宿る。
 現在放送中のシーズン5『白雪とオオカミくんには騙されない♥』ではさらに新たなルールが加わった。「オオカミくん投票」と同時に「落ちないで投票」が行われ、いったん脱落した男子も、その後の「落ちないで投票」発表の結果によってはラスト前で復活することができる。脱落発表でメンバーは皆「戻ってきて」と彼に願い、一人が欠けた作品完成の場でも「10人全員でおわろうな」と寄せ書きを残す。最新話(3/24配信)の復活可否の発表では、投票した視聴者のたくさんのコメントがメンバーの前に並ぶ。「また10人で恋をしてほしいです」。おそらく「誘惑や嘘のトラップを乗り越え」という『オオカミくん』設計の初めの段階では、こんな言葉が出るとは思わなかったはずだ。勝ち負けでもない、さらには個々人の苦闘でもない、恋する全員であることそのものに願いが向けられる。そこにはもう、意地の悪いシステム自体への恨みさえない。ひとつのシリーズでこんな変遷が見られるとは、きっと誰も思っていなかった。

 『オオカミくんには騙されない♥』シリーズは恋愛リアリティーショーの形式を取りながら、実際はシーズンを重ねていくことで視聴者を含めて思想/意識が転換していく、そしてルール(つまりは世界を構成するシステム)自体もそれを裏付けるように変わっていくことで、全体としてひとつの「出口」へ向かう。ちょうど、ループを繰り返すことでセカイの真実がヴェールを脱いでゆくタイプの(みんなが大好きな)作品に近いのではないか?
 なんて与太を先週までは考えていたので、『白雪とオオカミくんには騙されない♥』最終回(3/31配信予定)の予告編で大きく出てきた文字列に呆然としてしまった。

ついに明かされる オオカミくんの真実

 これ……。「人間とオオカミは元は同じ種族だったけれど、あることから『恋する種族』と『絶対に恋しない種族』に分かれてしまった」とか、「オオカミシステムを最初に設計した者の悲しみに満ちた理由」とか、「恋愛リアリティーショーという偽りの楽園を脱出するためオオカミの仮面を被ったダークヒーロー」とか、みんなが大好きなそういうやつではないですか……?
 そんなわけで、『白雪とオオカミくんには騙されない♥』来週の最終回に向けて今からでも1話から無料で見られるので、皆様よろしくお願いします……。(なぜ頼まれてもないのに宣伝しているのか分からないですが……)


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