モヤモヤ
娘が「大空賛歌」という合唱曲のピアノ伴奏を仰せつかってきた。
「先生ピアノ苦手なんだってー」
その言葉に◯十年前の記憶が甦る。
私が育ったのは過疎が進む豪雪地帯。子供の数が少ないので、ピアノが弾ける子供の数はもっと少ない。というか、私しかいなかった。
ピアノがバリバリ弾ける先生も赴任しては来ず、校歌・式典・学芸会・季節の行事・音楽の授業、伴奏は全て私が弾いた。小中学校の9年間、合唱で歌った記憶はない。
栄えた街の高校に進学し、合唱に参加した時は、「声に囲まれる」経験に身がゾワゾワしたことを覚えている。
私は伴奏を仰せつかると、その日のうちに譜読みをし、翌日には弾ける態勢にしていた。いつみんなで歌うかわからないから、一刻も早く準備をしたい、何事も先回りするその性格は今も変わらない。
ところが!!だ。
娘は一向に楽譜を開かない。なぜだ。
「譜読みせんと間に合わんで!」と言うも「いつ歌うかわからんし、まだえぇやろ♪」とテレビに夢中だ。
信じられない。いつ歌うかわからんから準備しとくんちゃうんか!!
性格が真逆な親子。本当にこの子は私のお腹から出てきたのだろうか?毎日がこんなことの繰り返しだ。
やきもきする私を遠目に見ながら、夫がやってきた。
「どないしてん?」「どうもこうもないわ!この子伴奏せんとあかんのに…」
話を聞いた夫から衝撃の言葉。
「俺、合唱歌ったことないわ。俺一人歌わんかっても影響あらへん思て、口だけ動かしとってん。はは♪」
嘘だろ…私はこんな男を人生の伴侶に選んだのか。絶望感が襲ってきた。
「頑張って先回りして、それが徒労に終わることだってあるやんか。人生は長いから、いらんとこでは手ぇ抜かんとあかんで。」
「そやで♪そやで♪」
娘が夫に賛同している。こんな娘が「賛歌」の伴奏をしてもいいのか?
モヤモヤと共に5月のスタート。
また前髪の白髪が増えそうだ。