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美味しい物を食べながら 生涯を生きる

認知症の症状の1つに、『晩御飯(食べたのに)食べてない』と言う訴えがある。これは、認知症により脳が萎縮したことで『満腹中枢が破壊される』からだそうだ。

うちの母も漏れなくそうだった。夜22:00に部屋から出て、台所や居間を徘徊する。『どうしたの?』って聞くと『晩御飯食べてない』と言う。

この時に、『食べたでしょ!』『お母さんが晩御飯あまり欲しくないって言って、ほとんど食べなかったからでしょ!』なんて返事は通用しない。

本人は、今、『お腹が空いているのだから』。

認知症介護当初は、『満腹中枢が壊れるから、ご飯食べてない』など訴えるなんて露知らず。『もう、ご飯何も無いよ、お母さんがちゃんと晩御飯食べないからでしょ』などと言ってしまっていた。

そんな状態が繰り返されたある日、最悪な事態が起きた!。そして、今まで静かだった空気が一変した。

母が、『もう2週間もご飯食べさせてもらってない!』と、鬼の形相で私を睨みつけながら部屋から飛び出てきたのである。

そこで、まだ事の真相を深く知らなかった私は、『そんな訳ないでしょ!』『さっきもご飯食べたじゃん!』『じゃあ、おにぎりあるから食べれば?』と母におにぎりを1つ差し出した。

すると、激昂した母は、手に取ったおにぎりを床に投げつけたのである。  

その瞬間、
私:『何するの!食べ物を粗末にしないで!』『もう食べなくていいからっ!』
母:地団駄を踏み、『ええい!💢💢💢』

と杖で床を激しく叩いた。リビングは修羅場と化した。

後に、母は『なんで急に激昂したのか』を考えた。思い当たる節がある。

母は、認知症になってから、『ビスケット食べたい』と繰り返し訴える事が増えた。私は、言われるまま間食にビスケットを用意した。

しかし、ここ数日間は、食が少し細くなっていた。そこで私は、『間食にビスケットを食べさせすぎたかな』と思い、間食を置かないようにしていたのだ。

そして、一連の言動をネット検索してみると、『認知症になると満腹中枢が破壊される』事が原因だとわかったのである。

母は、現在89歳、体重32kg。

その小さな身体のどこに食べ物がどんどん入るのか分からないが、本当によく食べる。食後でもビスケットを美味しそうに食べている。

枕元には、常に『ビスケットを入れたタッパー』が置いてある。母の食事の消費量と言えば、もう『家中の食べ物を食い尽くさん』ばかりの勢いなのである(笑)。

ビスケットやクッキー、子供用玉子ボーロなどなど、常にストックは欠かさない。おかげで、我が家のエンゲル係数は、軒並み上がりっぱなしである(笑)。

また、『破壊された満腹中枢による食欲』は待ってはくれない。なので、サイドテーブルには、何時でも食べられるように『小さなおにぎり』を置いてある。

尚、『認知症を遅らせる薬』は、敢えて内服させていない。内服すると、1日ぼ〜っとしたり、食事も取らず嗜眠(しみん)状態になったりする事例を元ナース時代に、嫌という程見てきたからだ。

母は、若い頃から『食べることが大好き』だった。いろんな道の駅を巡り、美味しそうなお弁当やパンなどを購入しては、ドライブしながら食べたりした。

最近は、以前と味覚までも変わってしまい、『味の濃いもの』を欲する様になった。それも、認知症の症状の1つであると、主治医は言い、『塩分には気をつけて下さいね』と、言っていた。

母には、ずっと、口から食べられる限り『美味しい』ものを食べて欲しいと思っている。毎日、試行錯誤を繰り返しながら母の食事を作る。
 
 認知症の有無に関わらず、美味しい物を食べることは、いくつになっても『しあわせ』なのである。

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