照れくさい理由
二つの派閥があるようだ。……「派閥」とは、なんだか、大袈裟な言い方になってしまったが。
鶏肉、玉ねぎ。それにマッシュルーム、コーン、グリーンピースなどを一緒に炒め、ごはんと共にケチャップで味付けしたもの。店によっては、炒める前に具のほうだけをトマトソースで煮込んでおく、いうこだわりを持っていたりもする。
「チキンライス」――カタカナの気取った名前がついているが、もちろんこれだって、日本で生まれた洋食なわけだ。「鶏肉と玉ねぎだけの、シンプルであるべき」と主張する人々と、「マッシュルーム以下…の品々も入れるべき」と主張する人々がいる。二つの派閥、というのはそういうことだ。
まあ、要するにこれは、家庭で作るチキンライスは鶏肉と玉ねぎくらいのシンプルなもので、店で食べるのはマッシュルームなんてものや、他のいろんなものが入っているもの……ということだろうが。
いずれにせよ、あの赤いチキンライスというだけで、子どもにとっては十分ごちそうだったのだ。母親が作ってくれるチキンライス。家族で一緒に出かけたときに、デパートの大食堂で食べるチキンライス。
それだけでも「ごちそう」なのに、さらに子どもの好きな卵でくるんでいるのが「オムライス」なわけだ。いわば、プレゼントを、きれいなラッピングで包み、リボンまでかけてくれてるようなもの。
「ごちそうのダブル」!
だから、たまに母親が作ってくれたオムライスは、子どもにとっては大いに嬉しかったのだ。マッシュルームがあろうとなかろうと、そんなことはどうでもいい。鶏肉でなくハムでごまかされていて、実は「チキンライス」じゃなくなっていたとしても、それでもいい。
あの甘酸っぱいケチャップごはんと卵は、ごちそうをダブルで包んでくれた、しあわせの味がしたのだ。オムライスの卵は、おいしさだけでなく、しあわせと、子どもの頃の思い出も一緒に包み込んでいる。
なるほど。だから、いい大人になって店でオムライスを頼む時、どこか子どもっぽい気がして少々照れてしまうのか。
(以上「オムライス」三題 2007/2/24 放送)
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