鯛と諺

「エビで鯛を釣る」
「腐っても鯛」
 ……このへんの諺は、説明がなくても、誰でもわかるだろう。鯛が出てくる諺というのは、これだけではなく、もっとある。ちょっと探してみると……

「鯛なくば狗母魚(えそ)」
 必要とするものがなければ、それより劣っているもので我慢するほかないという意味。…しかし、ご存知の方もいるかもしれないが、エソというのは蒲鉾の原料としては、高級な魚なのだ。それで我慢しろというのは、いかに鯛の格が上かということ。

「鯛の尾より鰯の頭」
 これは「鶏口となるも牛後となるなかれ」と同じ。大きな組織で低い地位に甘んじているよりも、小さな組織でその指導者になるほうがよいという意味。…これまた、鯛が高い位置にある。

「エビの鯛交じり」
 弱い者が強い者の中に交じっているという意味。…ここでも、鯛が大物の代表として扱われている。

 こうしてみると、どの諺も、鯛を別格の魚として扱っている。日本人の、鯛好きのほどがわかるというものだ。
 もっとも「鯛は、偉い!」とさんざん持ち上げておきながら、結局のところ、人はそれを食べてしまうのだが…。
 そういえば、最後にもう一つ、こういう諺もあった。

「鯛も一人はうまからず」
 どんなにうまいものでも、一人だけで寂しく食べるのではうまくない。食事は大ぜいで食べるのがおいしいという意味。それはそうだ。
 とはいえ実は、いい鯛が手に入れば「独り占めしたい!」という気持ちが、ふつふつとわいてくるのではあるが。

(以上「鯛茶漬け」三題 2007/3/3 放送)

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