76.VTR明けの顔

 かつて斉藤由貴ちゃんが歌った「卒業」という名曲があった。なんとも季節外れの話題ではあるが、ぼくはニュースを見ていると時々この歌の歌詞を思い出すのだ。
 松本隆の詞にはたしか、
♪あぁ 卒業式で泣かないと 冷たい人と言われそう♪
 という部分があった。そこんとこなのだ。 

 ニュースには時として「ウミガメの赤ちゃんが海に帰る」などのヒマネタがある。一服の清涼剤というやつですね。
 見るべきなのはそのVTRではなく、終わってスタジオの画面に戻った瞬間。VTR明けのキャスターの表情だ。
 キャスターはたいてい、
(私もみなさんと一緒に、ついVTRに見入ってしまいました)
 という微笑んだ顔になっている。
 モニターを見るために乗り出していた体をわざわざ戻す、という小芝居をする人もいる。そして、
(おっと、次は殺人事件の原稿を読まなきゃいけない)
 とすぐに堅い表情に変化する。 
 無防備な私を見られてしまったという一連のポーズなのだろう。
 しかし実際は、
「次の原稿の下読みをしてたから、そんなの見てないよ」
 とか、
「私、ウミガメになんか興味ないの」
  という人もいるのではないか? 
 しかし、微笑まなければならない。そこに人間性を見せると好感を得られる。女性キャスターなら特にそうだからだ。

 松本隆なら、
♪あぁ ウミガメの赤ちゃんのVTRで微笑まないと 冷たい人と言われそう♪
 という歌詞を書くだろうか。(書きゃしないよ、そんなゴロの悪い歌詞!) 

【モンダイ点】
◎微笑んだつもりが「おいしそう」と見えるキャスターは気をつけること。

(ステラ/1999/9/30)

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