王様の理由

 魚にはいろいろ種類がある。人によって、好みもいろいろ。
 ではあるけれど、その味、姿、格から言って、魚の王様はなにかと問われれば、あなたはなんと答えるだろうか?
 そう。なんといっても「鯛」だろう。

 日本人は、古来よりこの魚を好んで食べていたようで、縄文時代の貝塚から鯛の骨が出てくる。
 下って、神話には、赤い魚だから「赤女(あかめ)」という名前で出てくる。
 さらに平安時代には、「平魚(たいらうお)」という名前で呼ばれていた。たしかに、まな板の上に置いてみれば、あれは平らな魚。この「たいらうお」から「鯛」という名前になった、という説もあるようだ。
 もっとも、平安時代、一番の魚というのは、実は鯛ではなかった。なんだとお思いか?

 それは「鯉」なのだ。
 考えてみれば、当時の都・京では淡水魚が第一の魚になるのは当然。あの「徒然草」にも、そう書かれているようだ。
 実は、日本人にとって鯛が一番の魚になったのは、武士の時代から。なぜか?硬い大きな頭は兜。赤い、引き締まった体は緋縅の鎧。……と、武士の力の象徴。
 さらに、鯛は魚としては破格に長い寿命を持っていて、なんと三十年! 長いものは四十年にもなるという、その長寿。そして、子沢山。
 恵比寿様が、釣竿で釣り上げているのが、大きな鯛。それから「めで鯛」という洒落までできるから、これは大変縁起のいい魚だということでもある。

 ……こうしたいろんなことが合わさって、江戸時代には庶民の間でも、鯛は魚の王様になったようだ。
 まあ、もっとも、なんだかんだと色んな理屈を重ねてはいるけれど、実は、一番の理由は、「うまい!」…ということなんだろうが。

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