王様のシチュー

 ビーフシチュー
 タンシチュー
 クリームシチュー
 シチューの仲間もいろいろある。ロシア料理のボルシチなんてのも、そうだろう。

 英語の「シチュー」という言葉は、すでに千三百年前から使われているようだ。では、その頃は、どんなシチューを食べていたのか? 実は、英国王室のメニューが残っている。歴代の王たちが、好んで食べたシチューは?

 まず、十一世紀のウイリアムⅡ世。彼の食卓にあがっていたのは、
「鹿肉・蕪・にんじん・玉ねぎのシチュー」
 鹿ですか。このあたりは、まだ素朴な料理のようだ。

 十二~三世紀のジョン王は、
「うなぎと玉ねぎのサフラン風味のシチュー」
 これはちょっと味の想像がつかない。うなぎ、と言われてもねえ。

 十四世紀のエドワードⅢ世は、
「マカロニを添え、黒パンでとろみをつけた、スパイスの効いたビーフ・シチュー」
 ああ、これならわかる。うまそうだ。

 続くリチャードⅡ世は、二千人の料理人を抱えたグルメだったらしく、
「ハーブやにんにくを詰めたハトのシチュー」
 を食べたとある。これまた、うまそうではないか。さすがグルメ。

 ぐっと下って十九世紀のジョージⅣ世は、フランス人シェフを招いていた。食べたのは、
「マディラ・ワインとエスパニョール・ソースを使ったうずらのシチュー」
 高級そうで、またまた想像がつかなくなってくる。

 もちろん我々庶民は、英国王室には及びもつかない。が、ごく普通の「コトコトじっくり煮込んだビーフシチュー」でも、誰かがあなたのために、時間をかけて煮込んでくれた…というだけで、十分に王様気分を味わえる。

お読みいただき、ありがとうございます。本にまとまらないアレコレを書いています。サポートしていただければ励みになるし、たぶん調子に乗って色々書くと思います! よろしくお願いします。