84.猫とカメラ
そのあまりに素晴らしい腹話術テクニックから、ぼくが「ボイス・イリュージョン」と名付けたのだが、ここのところ、いっこく堂のライブを手伝っている。(いっこく堂ミニ知識 ご本人は「玉城いっこく」さんで、人形たちを含めた一座のことを「いっこく堂」と呼ぶのです)
世間で急速に有名になってきたので、今回のライブ前にはテレビの密着取材がついていた。しかも三番組も。
当然、けいこ風景の取材では一緒にいるぼくにもカメラが向けられてしまうわけだ。普通に打ち合わせをしているのに、横でテレビカメラにじーっと覗き込まれるというのは、あんまり気持ちのいいものじゃない。できれば映りたくない。
そんな時、かつて古株のプロデューサーに言われた言葉を思い出したのだ。
「猫とカメラは動くものを追う」
テレビというのは動きを伝えるメディアだ。同じようなシーンでも、カメラは少しでも動きのある被写体を追うものだ、と。
そこでぼくは、取材カメラが回っている時はつとめて動かない作戦に出た。さも大切な演出上の問題点を考えているようなフリをして、内心は、
(早く他のものを映してくれぇ)
と思いつつ、じっと動かない。
だがカメラは、ぼくが動き出すのを待ってまだ回っている。しかしぼくは、じっとそのまま。カメラはまだ待っている。さらにぼくはじっと……。
なんだか、しだいに、
「先に動いた方が負けだ」
という、果たし合いみたいな気分になってくる。こういった無意味な神経戦で、ぼくはへとへとになってしまったのだった。
【モンダイ点】
◎どうせオンエアでは、スタッフの映像など使いはしないのだが。
(ステラ/1999/11/25)
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